アリオンはモバイルコンピューティング推進コンソーシアム(以下MCPC)から、MCPCが推進する『モバイル充電安全認証』の日本で最初の指定認証機関として2016年8月4日に正式認定を受けました(参考記事)。規格策定の裏側には、MCPCとアリオンによる、およそ2年に渡る協議がありました。アリオンはモバイル充電安全認証規格の立案初期段階から、MCPCモバイル充電技術WGメンバーとともに規格の策定と、認証試験開始の準備を進めていました。このたび、認証試験の開始にあたり、充電安全認証規格のキーマンであるMCPC幹事長兼事務局長である畑口氏と、MCPC技術委員長である小熊氏の両氏を本社にお招きし、モバイル充電安全認証について三者鼎談を実施しました。

 

───『モバイル充電安全認証』策定のきっかけとは

中山:本日はどうもお忙しいところありがとうございます。モバイル充電安全認証をMCPCさんと進められることは、我々としても大変喜ばしいことです。

畑口:今回のように試験サービスとして開始できるというのは、MCPCにとっては最も理想的なやり方だと思います。アリオンさんで実施していただけるということで、中山社長にはとても感謝しています。

中山:こちらこそ、ありがとうございます。今回開始するモバイル充電安全認証についてですが、どのような背景があって規格策定を進められたのでしょうか。

畑口:モバイル充電安全認証は、国民生活センターにスマートフォンの充電時に事故が発生するといった報告があったことが大きな後押しとなり検討を進めていきました。当時、通信事業者の方からMCPCで検討できないか、というお話を受けまして、MCPCとしてもエンドユーザーのために何ができるかを検討する必要がありました。

小熊:事故が発生し始めた背景には、コネクタ形状の変化があります。携帯電話・スマートフォンの充電端子がUSB Micro-Bに代わり、以前の携帯電話で使われていたコネクタ形状から小さく複雑に、そしてグローバルになっていきました。そのため、ユーザーが今までと同じようにコネクタを使っているとハーフショートといった新しい種類の事故が発生する可能性が高まった点が挙げられます。

中山:なるほど。今回、この認証試験を開始するのと同じタイミングで、USB-IFでも『Power Delivery』という給電に関する規格や、『Type-C』と呼ばれるリバーシブル挿抜できるコネクタが登場しました。特に、Type-Cは話題性が高い規格です。コネクタの形状が変化しますので、これを機にUSBインターフェースの充電安全認証について、今後ますます必要になってくるものだと考えています。

小熊:最近だと、スマートフォンの急速充電に対応した充電器が登場しており、扱われる電力が大きくなっています。ですから、それだけ充電器が供給するパワーも強くなります。こうした状況で、仮にショートを起こすとすると大事故になりかねません。

中山:先日、海外大手家電メーカーの新しいスマートフォンで爆発事故が発生したことが記憶に新しいですね(参考記事)。これからは、急速充電に対応した製品がどんどん市場に登場する一方で、十分に検証を行わずに販売した結果、ユーザーの安全性に悪影響を及ぼす製品も販売されてしまうことでしょう。

小熊:モバイル充電安全認証では、実際にユーザーの使い方によって起きる事故の対策を順次取り入れて認証を進めたいと考えています。現在はハーフショートが主な対策となっていますが、今後も新しいコネクタ形状であるType-Cなど、種類によって取り扱い方が変わってくると思いますので、都度対策を考えたいと思っています。

 

───『ハーフショート』問題の具体例とその対策

中山:ハーフショートが主な対策とのことですが、電気安全における「ハーフショート」とは、どのような状態を指すのか、具体的にお教えいただけますか。

小熊:はい。いわゆる「ショート」だと、端子を繋いで通電させた際に花火が出るなど、ユーザーにとって比較的分かりやすい状況で発生します。一方で「ハーフショート」は、ショートしている状態としていない状態が不安定に起きる、という中途半端な状態を指します。この場合、見た目では判断できない場合が多いのが特徴です。例えば、コーヒーを充電端子にこぼしてしまった場面を考えてみると、こぼした時にはユーザーはコーヒーを急いで拭き取りますので問題は起きず、拭き取った後、水分が蒸発しコーヒーの成分だけが固まって端子に残ることがあります。これが原因で数週間後にハーフショート状態になってしまうのです。これを検証するにも、何しろコーヒーをこぼしたのは数週間も前の事ですから、ユーザーも覚えていません。業界としては対策の難しい問題です。

中山:例えば、コーヒー以外にも様々な事例が考えられますね。ユーザーの使い方によっては、例えば鞄に入れっぱなしで端子にホコリが詰まったり、女性だと化粧台で充電する際に化粧品のパウダーが端子に付着したりするケースも多いのではないでしょうか。

小熊:その通りです。実際に充電の使い方を考えたとき、夜中のうちに充電して、次の朝、充電が終わってから使い始める、という方が多いと思います。このとき、充電後に携帯電話を充電器から外しますが、充電器そのものは電源に刺さったままということがほとんどです。つまり、ACコンセントからは常に電力供給できる状態になっています。そこに導電成分を含むホコリや微粒子が付着するとハーフショートが起きてしまい、充電器は一見何も繋がっていない充電端子に電力を供給し続けるため、異常発熱や、最悪の場合、発煙発火してしまう恐れもあります。家の中でペットを飼われている方は、特にペットの抜け毛にも注意が必要です。

中山:だからこそ、ハーフショート対策をメインで試験項目を策定したわけですね。

小熊:はい。起こり得る大きな事故の中でも、大きな率を占める部分をまず抑えることで、小さな部分の対策にもつながります。また、たとえハーフショートが起きても、問題とならないように設計することは可能です。今回のような認証で安全設計に対する市場認識を広げていくことも大切です。地道な活動を続けることで、後々の事故を減らすことに大きく貢献できると考えています。

 

───試験項目の策定における課題とは

中山:モバイル充電安全認証の策定ではトライアンドエラーを繰り返して、WGの皆さんと多くの議論を重ねたことで、ようやく試験項目の策定となりましたね。

小熊:ええ。ハーフショート対策のガイドラインでどういった技術の掲載が必要なのか、また、文書化する上で第三者的に見てどのようにガイドラインの内容をチェックすればいいのか、そして試験機関としては実際にどういう点をチェックすればいいのか、これらについてアリオンさんにはアイディアを出していただきました。

中山:アリオンはHDMIやUSB、Wi-Fiなど試験・認証の経験が豊富にありますから、実際の運用事例を元に検討しました。認証の策定にあたっては、試験にかけるコストのバランスと、試験の再現性について特に気を使いました。

小熊:認証試験としては、チェックの技術的な複雑さとトータルコストとのバランスが重要になってきます。技術的に細かい部分までチェックしようとすれば、より試験としての完全性は高くなりますが、費用が高くなってしまう。かと言って、ポイントを押さえた試験を行わないと効果は出ない。ですから、どういうバランスで試験項目を策定するべきか、検討の肝でした。

中山:そうですね。試験内容を充実させていけば、数百万円単位の機器を揃える必要があります。また、試験項目自体も再現性が難しい部分であり、クリアにしなければ問題の一つでした。試験に再現性がなければ、試験そのものの信頼性に影響が出ることになります。つまり、コストを抑えるために試験項目を絞り込み、更にどうやって試験の信頼性を担保するのか、という二重の問題がありました。

小熊:充電器は一個あたりの値段が数百円レベルの製品が多く、認証費用が高いと受検していただくのが難しくなってしまいます。アリオンさんにはリーズナブルかつ効果的な試験方法を考案していただきました。

中山:モバイル充電安全認証は、我々にとってはむしろ社会的な意味で実施させていただいている面があります。試験費用を安く押さえることで、メーカーが受検しやすい仕組みづくりを進めています。

 

───日本発の安全規格を広めていくために

小熊:MCPCとしても、認証マークの認知度を上げるためのプロモーション活動を並行してどんどん実施していく予定です。他の団体とコラボすることも計画しています。

中山:今回の安全規格の策定に関しては、「日本発」という点に大きな意味があると思いますね。アリオンでは、ケーブル・コネクタの検証センターを二年前に設立し、おかげさまで国内外の多くの企業から認証業務を委託していただいています。アリオンは海外の各拠点にネットワークがありますので、モバイル充電安全認証規格を日本から海外へと展開していくことができると考えます。今後、海外の大規模展示会に積極的に出展していますので、MCPCさんと連携して日本発の規格を展示し、世界に広める一つのきっかけにできるのではと思います。安全性については世界的な課題ですので、国境を跨いで展開できるのではないでしょうか。

畑口:MCPCはワールドワイドでも活動していまして、主に米IEEE協会との活動が盛んです。あとは、韓国では大韓国貿易投資振興公社(KOTRA)とは大変良い関係で仲良くさせていただいています。海外展開については、このような協会同士の連携からも進めていきたいですね。

中山:今回は日本の三大キャリアも積極的に動いているという背景もあり、我々の方でも団体とコラボしながら動いていきたい方針です。アリオンの強みは大手企業から中小企業、それから各団体とも密接な関係を持っている点にあります。今回の規格策定をきっかけにして業界にアプローチしていく、というやり方もあります。

畑口:例えば、自動車業界はいかがでしょう。最近は自動車のUSBインターフェースから携帯電話を充電するケースは多いですね。

中山:自動車業界だと、おそらく関心を示すのはJASPARさんでしょう。JASPARの中でも数多く委員会がありますが、アリオンは第三者品質検査、認証機関の観点から様々な委員会活動に参加しています。自動車業界としても携帯電話との連携は意識しています。このような部分から、他業界に規格を広げていくことも可能かと思います。

小熊: MCPCのワーキンググループの方でも現在、他団体の方からコンタクトを頂いたりしています。仮にJASPARさんにご協力頂くことができれば、他の業種や業界に広めることはより現実的になるでしょうね。

中山:自動車業界が最も気にかけていることは、自動車は命に関わる製品であるという点です。例えばブレーキや電装系については搭乗者の命に関わることから、品質には非常に拘っています。そういう意味では、充電の安全性も同じカテゴリに入りますので、自動車メーカーにとっても見逃せない項目となるのではと考えます。

 あとは、今回の充電安全認証規格は一つのきっかけであって、これから、例えばスマートフォンのバッテリーに対する規格を策定するなど、新たな規格を作ることができれば、端末メーカーさんも巻き込めるのではないでしょうか。

小熊:携帯電話のバッテリーですと、情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)も取り扱っていますので、一緒にコラボして他の団体と認証を進めていくのも一つの手だと思います。民間団体が進める認証というのは、運営が難しい部分も結構あると思っています。MCPCが最初にフレームワークを作っておけば、他に広めるというのは現実的な方法だと思います。

 

───最後に、モバイル充電安全認証に対する期待について

中山:アリオンの本業は、認証試験機関です。既存のUSBやHDMI、Wi-Fi、Bluetooth、FeliCaといった認証試験と今回新たに開始したMCPCの試験について、相互に補完しあうような関係でお客様により充実したソリューションを提供できると思います。新たにMCPC充電安全認証を受検したいと考えているメーカーさんにとっては、いろいろな会社にそれぞれ試験を委託するのではなく、一箇所に集中させて試験を依頼できるというメリットがあります。

畑口:MCPCとしても機器検証プログラムを開始するのは初めてでしたし、アリオンさんにはプログラムのテストケースも含め、運営方法やどういった流れでお客様に試験を提供しているかなど、そうした運営体制についてもご意見をいただきました。技術面、もしくは運営上のノウハウについて、ご意見などを頂戴しながら、より良い運営を進めていきたいと思っています。アリオンさんは我々の認証を実施されているかと思いますので、発展の可能性につながるご意見を頂戴できれば、我々としてもこれまで認識していなかった問題について、試験が必要だと進めていけるのではと思います。

中山:ぜひ、モバイル充電安全認証の普及に向けて活動を続けていきましょう。本日はどうもありがとうございました。今後とも、よろしくお願いいたします。

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