IT業界の急速な発展に伴い、信号通信の品質と速度、アプリケーションの多様性など、より高性能な製品開発に向けて、様々な企業が技術開発を進めています。エンコーディング、パッケージング技術の向上や全二重通信の提供によって伝送速度を向上させ、ユーザ側の待機時間の短縮を目指しています。この目標を達成するため「ブリッジ」としてのコネクタが注目を集めており、信号通信の品質と速度の改善が期待されています。

例えばUSBのデータの伝送速度を例にとると、最初USB 1.0の最大データ伝送速度は12Mbpsでしたが、次に登場したUSB 2.0だと最大伝送速度が480Mbpsと高速化しました。続いて登場したUSB 3.0 (SuperSpeed USB)は5Gbpsまでの速度に対応し、最近登場したUSB 3.1 Gen 2だと、USB 3.0の2倍となる10Gbpsものデータ伝送速度に対応しています。高速伝送するため、通信方向も半二重通信方式から全二重通信方式に変わりました。

図1:USB規格の変遷

外見

データ伝送速度の向上だけでなく、コンシューマー向けのIT製品は薄型・軽量化が進んでいるため、コネクタの形状についても同様に薄型が求められています。USBコネクタはStandard, Mini, Microに加え、最近登場したType-Cと、時代のニーズに合わせて様々な形状が登場しています。薄くて軽いことだけが良いコネクタの条件ではありません。簡単に挿抜できることや、様々な利用ケースに耐えうることなどが求められます。

伝送性能

これまでのコネクタは、大容量のデータを伝送するニーズがなかったため、挿抜力、耐久力、端子接触保持力、接触抵抗といった機械特性と電気特性に関する試験のみ実施していました。しかしUSBとIEEE 1394が登場し大容量データ伝送が手軽に実現可能となったことで、試験のポイントも変わり始めました。従来、電流で大量のデータを伝送できるかどうかを確認する試験が中心でしたが、現在ではインピーダンスや伝播遅延、伝播スキュー、アッテネーション、クロストークなどの試験が追加されています。これらの新機能によって、高速データ伝送時の整合性をより正確に検証可能です。

干渉

データ伝送の大容量化と共に、HDMI、DisplayPort、USB 3.1 Type-Cなどの高速インターフェースが普及し、伝送速度がMbpsからGbpsに高速化しました。しかし、良い面ばかりではありません。同時に符号間干渉問題も増加を続けており、これをどう改善するかが重要な課題となっています。単線ケーブルからツイストペアケーブル(図2)や同軸ケーブル(図3)に変更することで、ケーブル自体の干渉を減衰させ、外部からの干渉に対する抵抗を増加できることでしょう。ただ、複数のワイヤや信号ペアが高速でデータ伝送すると、クロストークも増加するため、その原因をそれぞれ検証する必要が出てきます。

図2:ツイストペアケーブル

図3:同軸ケーブル外観図

「クロストーク」とは、伝送信号が他の伝送路に漏れることです。伝送システムの回路またはチャネル上から送信された信号が、別の回路またはチャネルに対して望ましくない影響を及ぼす現象を指します。通常だと、回路、チャネルの一部から別の回路に対する望ましくない影響が、容量性・誘導性・導電性などの結合によって引き起こされます。例えば、自宅で固定電話を使用する際、通話中に第3者の音声が聞こえる、といった現象です。高周波数の送信は、隣接する高周波の送信とのクロストークを避けられないため、試験により測定値を算出してクロストークの許容範囲を抑える必要があります。

クロストークは近端クロストーク (Near End Cross Talk)と遠端クロストーク (Far End Cross Talk)に分けられます。USB Type-Cは4つの信号ペアを備えており、DisplayPortには5つのAUXコントロール信号ペアが備わっています。どちらもクロストークの測定値を重視しており、検証項目にも組み込まれています。

信号損失

製品の小型化が進んだことで、軽量で折り曲げに強いツイストケーブルのニーズが増加しました。この傾向が進むことで、単線の直径がより細くなることが予測されています。HDMIケーブルの太さは約24〜30 AWGですが、USB 3.1は28〜34 AWGです。ケーブルが薄くなると、銅の特性で高周波回路における信号が伝送損失してしまいます。

「損失」とは、通信線路上を流れる電気信号や光信号を減衰することです。挿入損失 (Insertion Loss)と反射損失 (Return Loss)の2つのタイプに分類することができます。理想的な状況では伝送減衰は存在しません。ですが、現実では銅の特性のため、高速なデータ信号の伝送距離が長ければ長いほど、信号の損失が増大します。このような損失はコネクタ側には影響しませんが、ケーブル側に重大な問題を招く可能性があります。反射損失の発生は、コネクタあるいはペアリングインタフェースによって引き起こされるようです。こうした問題の原因はコネクタ形状と構造特性にあり、また、コネクタの製造過程で発生した構造的欠陥が、本来あるべき性能の発揮を妨げています。品質を向上させるためには、挿入損失と反射損失に関する試験項目が不可欠になります。

USB-IFでは、以下の基準 (表1、表2)で信号損失に関する規格を策定しています。

表1:Twisted Pair Cable Decay Comarison

(Source:Universal Serial Bus Type-C Cable and Connector Specification Revision 1.2)

表2:Coaxial Decay Comparison

(Source:Universal Serial Bus Type-C Cable and Connector Specification Revision 1.2)

時間領域 (Time domain)と周波数領域 (Frequency domain)は、ケーブル挿入損失を検証する試験設備です。USB 3.1認証試験にはTDR (Time Domain Reflectometry)とNA (Network Analyzer)を使用しています。伝送速度を向上させるため、そしてコストを抑えるために試験項目を絞り込み、いかに有効な試験を設計するかが今後の課題となります。

USB 3.1 Type-C認証を例に挙げると、MOI (Method of Implementation)では単一のケーブルマシーンを利用し、TDR及びNA測定を含むケーブル試験を実施します。TektronixのTDR測定では、IConnectというソフトウェアを通じてFast-Fourier Transformを使用することで、様々な周波数のSin Waveに変換可能です。一方、Keysight ENAでは、測定されたSin WaveをInverse Fourier TransformでTDRに変換可能です。

図4:時間領域と周波数領域

将来性ある高速コネクタは、薄型であり高速データ伝送が可能といった条件を満たす必要があります。現代のコネクタ製造においては、機械加工技術に代わってマイクロデバイスと高周波技術が進歩しています。コネクタへの試験と分析のために、大量の資金と労力を投入する必要があります。先ほど紹介した新型コネクタとそれに関連する信号伝送技術は、ハイエンド製品開発において重要な役割をはたすことでしょう。

アリオンでは信号伝送技術に精通したエンジニアがNAやTDRを活用し、手間や費用と言ったコスト削減をお手伝いしています。

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