あるGoogleのエンジニアが、オンラインストアで販売されていたUSB Type-Cケーブルの試験を行ったことで、思いもよらない災難を受けることになりました。使用したケーブルが基準に準拠していない設計だったために、Chromebook Pixelに接続して試験を行った際、そのPCを破損させてしまいました。ケーブル内のワイヤのハンダ付けが間違っていたことにより、電流が間違った場所(orピン)に流れてしまったことが原因でした。また今年の2月に、Appleは2015年6月以前に生産されたケーブル設計に欠陥があったとし、Apple純正USB Type-Cケーブルの回収を行いました。該当するケーブルだとMacBookに充電できないか、あるいは充電が途切れる現象が発生する可能性がありました。

USB Type-Cは、上下リバーシブル挿抜、最大10Gbpsに対応などが特徴です。また、USB Power Delivery(PD)を適用することで、充電とデータ送信を個別にサポートすることができます。BC1.2では7.5Wだった電力供給量が、PDでは最大で100Wと飛躍的に向上しています。USB-IFの充電規格以外ではUSB Type-CはQuick Charging(QC)にも対応しています。映像関係だと、Alternate Modeでは1本のケーブルでDisplayPort映像信号の出力ができます。このため、従来のUSB規格と比較してケーブルの構造が非常の複雑になっています。ケーブル・コネクタメーカーは開発段階でUSB-IFの仕様に準拠が必要のほか、製品品質と安全設計を確保しなければなりません。さらに、自社のType-C製品(ケーブル含む)が様々な使用状況下でスムーズに動作できるかどうかを検証し、電源供給能力の異常、システムの停止、コンポーネントへの影響など、不測の事態が起きないよう注意深く調査する必要があるのです。

 

図1. USB Type-Cエコシステム

こうしたホットなテーマと市場にある潜在的なリスクを把握すべく、アリオンでは一連のUSB Type-C製品に関連した互換性試験をデザインしました。一般ユーザーの操作状況のシミュレーションを通して、使用者の経験をマトリクスとしてまとめ、該当する試験結果と規格の定義の関係について分析を加えました。

 

USB Type-C Power Delivery互換性試験

(1)試験サンプル

Type-Cポートを備えたPC、携帯電話とタブレットとその正規充電器、合計10種類を試験サンプルとして準備しました。

(2)試験フィクスチャ

アリオン独自開発によるType-Cのデジタル電源量測定治具モジュールAU-16001、AU-16002を使用することで、高価で操作の複雑なオシロスコープ、マルチメーターなどの購入によるコストを節約でき、素早く正確な充電物と被充電物の間の電流と電圧を測定することができます。

AU-16001

(Receptacle to Receptacle)

AU-16002

(Plug to Receptacle)

 

(3)試験状況

この試験では一般的な使用者がよく用いる状況をシミュレーションしました。4種類の分類に分けられます(図2)。

  • 試験A:Type-Cデバイス vs メーカー正規のType-C充電器
  • 試験B:Type-Cデバイスvs 他メーカーの充電器
  • 試験C:Type-Cデバイス vs 他メーカーのType-Cデバイス
  • 試験D:Type-Cデバイス vs 非Type-Cシステム

図2. USB Type-C PD試験状況図

試験A: Type-Cデバイス vs メーカー正規のType-C充電器

表1. 試験Aマトリクス(註:白色の部分は試験範囲、灰色の部分は試験の必要なし)

 試験Aではデバイスと、正規の充電器との間で正常に充電されているかを確認します。手順としては、まずメーカー正規の充電器がサポートする電流と電圧を記録し、そのキャパシティを定義します。次に充電器を接続した後のデバイスを確認し、電流電圧が充電器の規格と一致しているかどうかを観察します。我々はGoogle Chromebook 2015の試験サンプルを例として挙げ、該当する機種をUSB Type-C AC to DCとし、充電器に記載されたサポート電圧電流のキャパシティを5V/12V/20V=3Aとしました。次に接続して充電後のデバイスを計測したところ、得られた電流電圧値は20V =1.16Aとなり、またPD protocolの双方の通信内容を検証して解釈すると、該当するデバイスと充電器のPDの通信内容が実際の測量の効果とかみ合うこととなりました。

試験Aのまとめ:10社のデバイスと対応する正規充電器との互換性は規格と一致しました。

試験B: Type-Cデバイスvs 他メーカーの充電器

表2. 試験Bマトリクス(註:灰色部分は試験の必要なし)

試験Bは主に異なるメーカーのデバイスと充電器の間の互換性を確認するための試験です。一般ユーザーでよく利用される各ブランドのデバイスと充電器の相互接続と充電状況を確認しました。試験Bの結果は、異なるメーカーのデバイスと充電器との互換性を理解し、同時にメーカーが充電器サプライヤーを選択する重要な指標となることでしょう。

表2の中で、緑色のブロックの数値はユーザー観点での結果と一致しており、充電器はデバイスに電力を供給することができます。黄色のブロックはユーザーが予期しなかった結果であり、充電器はデバイスに対して電源供給できませんでした。しかしながら、緑色のブロックの中の数値は本当に規格に一致するといえるのでしょうか。逆に、黄色部分のブロックは規格に一致していないといえるでしょうか。Googleのエンジニアが書いた文書が示す不合格(規範に一致していない)ケーブルは、充電器とシステム側の両方に発生するものなのでしょうか。この問題に対して、後半検証を行います。

試験C: Type-Cデバイス vs 他メーカーのType-Cデバイス

表3. 試験Cマトリクス(註:灰色部分は試験の必要なし)

 USB Type-Cでは充電側と給電側の役割を交換できることから、それぞれを定義できます。試験Cの主旨は2つのデバイスの間の相互運用性と、そのプロセスで電力の役割(Power Role)をどう定義するかを確認しました。この試験ではE-markerのないAppleオリジナルUSB Type-Cのケーブル(2015年6月生産以前でない)を使用してデバイス同士を接続しています。表3内の白色のブロックは相互動作が確認できた部分です。黄色ブロックでは特殊な現象を確認しました。Letv Max(X600&X900+)をGoogle Chromebook 2015と接続した際、前者の後者に対する電流は非常に小さく、最終的には給電を停止してしまいました。またNokia N1をGoogle Chromebook、Apple MacBook MF855TA/A、Apple MacBook12にそれぞれ接続すると、3機種のノートPCは互いに充電することができませんでした。Letv (X600&X900+)とGoogle Nexus (6P&5X)の間では、UIの調整によって充電方向に変化が見られました。

試験Cのマトリクスはある疑問を呼び起こします。2つのType-Cデバイスが相互で接続されている環境下では、どちらが充電する側となり、どちらが充電される側となるのでしょうか。いかにして電力の役割(Power Role)は定義されているのでしょうか。本稿の後半で、この問題についての考察を行っていきます。

試験D:オリジナルメーカーのType-Cデバイス vs 非Type-Cシステム

表4. 試験Dマトリクス

BC 1.2 CDP充電モードは一般的な携帯電話でよく見られる充電モードで、同時にデータ送信をサポートし最大7.5Wの充電ができます。

試験Dでは、USB Type-C製品とBC1.2 CDP(Charging Downstream Port)をサポートするUSB Type-Aポートとの接続を確認するためであり、製品がUSB Type-Cコネクタであることで、USB Type-AのCDP機能を享受できるかどうかを確認します。ここではWindows PCであるHP EliteBook Folio 9480mをType-A Hostとしました。実施の結果、Xiaomi Mi-4c、LG Google Nexus 5X、Huawei Google Nexus 6P、Nokia N1、ASUS ZenPad 8.0を含む5種類の携帯電話は、すべてBC 1.2 CDPモードに入ることに成功し、Windowsのデータ送信ができるだけでなく、大きく充電効率が向上しました。

(4)試験の結論

試験AかDまでの結果をまとめると、Type-Cのデバイスが様々な充電モードをサポートできることが伺えます。

例えばXiaomi Mi-4c はDCP、CDP、TYPE-C UFP/DFPとQC2.0の4種類のモードをサポートしており、各種のモードにより様々な充電効率をもたらします。もしGoogle Nexus 6Pの充電器を異なるType-Cのデバイスに接続したとすると、製品によっては充電できないものも多くみられます。充電しない状態は使用者のユーザーエクスペリエンスに悪影響を及ぼし、製品側の問題であると誤認されてしまいかねません。しかしながら2項目の製品の充電モードには相互での互換性がなく、このような「充電しないこと」はかえって規格に一致した保護機能の一種と言えます。

表5. 結果リスト

前述の試験Bと試験Cで出た疑問に対し、この結果から合理的な解釈を導き出すことができます。「充電できるか否か」は製品を判断する指標ではなく、「充電する能力がある」あるいは「充電できない」ことが、双方の充電モードに互換性があるかどうかの結果となる可能性があります。1つの完全なUSB充電モードの検証に、上述の推論を考慮することで、製品がほかの項目の製品とスムーズで正常に動作動作できることを確保することができ、また充電結果の合理性を正確に判断することができるのです。

(5)個別案件の研究

1.Type-Cデバイスvs 他メーカーの充電器

表6. 試験Bの個別案件リスト

試験Aの結果表とPD protocolの解釈に基づくと、LG Google Nexus 5XとHuawei Google Nexus 6Pの充電器は、同様にUSB Type-CのメスとType-C Current ModeとD+D-ショート(DCPを使用可能)をサポートしています。しかし、2種類は同じ充電を行う充電器ですが、異なる結果となることが検証結果により確認されました。

アリオンの分析によると、LeEco Letv Max(X900+)、Letv (X600)とNokia N1 の設計は特殊であり、Letv X900+ & X600のデフォルトはType-CがDFPと定義されています。Nokia N1はUSB Type-CのCC Pinを定義しておらず、またUSB-Type-Cの規範の下で正常なVBUSの電力供給はまずCC Pin上の電圧あるいは電流の識別を行います。Huawei Google Nexus 6Pの充電器は正確に識別を行いましたが電力供給を行わず、しかしLG Google Nexus 5Xの充電器は識別をせずに電力供給を開始しました。識別を行わずに電力供給を行うことは、Back Voltageのリスクと破損や故障を招く可能性があります。

 表6中の黄色ブロック(充電しない部分)は規範に一致した接続反応にもかかわらず、ユーザーにとって好ましくないユーザーエクスペリエンスをもたらしているのです。充電の緑色のブロックは不正確な接続反応であり、使用者は充電して正常であると誤解しているのです。USB Type-Cの電源の互換性の難しいところは、充電することができることが正確な行為とは限らないことです。充電できない可能性こそが正確な動作なのです。

2. Type-Cデバイス vs Type-Cデバイス

2つのType-Cのデバイスが接続されている環境下で、一体どちらが充電する側となり、またどちらが充電される側となるのでしょうか。どのようにして電力の役割(Power Role)を定義するのでしょうか。役割の定義づけの混乱を避けるために、私たちは検証過程において、LG&HuaweiのGoogle Nexusの携帯電話が使いやすく、十分に直感的なUIであることを確認しました。電力の出力機能を備えたType-Cの製品と接続する際、使用者は事前に電力の役割を設定することができます。図3はLG Google Nexus 5XとHuawei Google Nexus 6pを接続した際のスクリーンショットです。

図3. 試験Cの個別確認

アリオンのType-C互換性試験

 「充電できるかどうか」はType-C対応の製品を評価する上での指標ではなくなりました。USB Type-C PDは双方が正確な電流と電圧であって初めて相互に通電する充電規格です。USB Type-C PD技術が、確かなUSB充電モードによる検証方法でない限り、製品の品質と安全を確保するのが難しいことが今回の結果から受け取れます。

現在USB-IFからは、未だ完全なType-C PDのスペックが発表されていません。各社の製品は、協会が公開する規格と一致する程度も非常に差があり、そのために製品の設計と試験の上で多くの改善の余地があります。後日、今回の記事とは別に、試験の際に発見された重大な問題を個別に検証した内容の公表を予定しています。ご期待ください。

 

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