Allion Labs / Alvin Tsai & Chris Wu

概要
従来から室内Wi-Fiに共通のパフォーマンステスト基準がなかったため、ベンダー各社が各自の仕組みでテスト及び定義付けを行なってきました。結局、ユーザーが関連設備を購入する時、やむを得ず各製品のそれぞれの説明に依存し、異なるブランドの製品を比較する共通の土台もありませんでした。今年になり、ようやく国際非政府組織のブロードバンドフォーラム(Broadband Forum)は、ベンダー及び試験ラボと共同で室内Wi-Fiのパフォーマンステスト基準を制定し、2019年2月に初の家庭用Wi-Fi性能テスト基準「TR-398室内Wi-Fi性能テスト基準」(以下、「TR-398規格」といいます。)を発表しました。

ブロードバンドフォーラム(Broadband Forum)は、国際的な非政府組織であり、ブロードバンドインターネットの規格開発に特化した非営利の業界コンソーシアムです。そこで発表された有線インターネット接続規格に、PON、VDSL、DSL、Gfast等が含まれます。ブロードバンドフォーラムのメンバーに、通信ネットワーキング及びサービスプロバイダー企業、ブロードバンドデバイス及び機器ベンダー、コンサルタント、独立した試験ラボ(ITL)を網羅しています。その取締役会の構成員には、BT、AT&T、エリクソン、ノキア、ARRIS、Calix、インテル、ドイツ・テレコム、テレコム・イタリア、InCoax、ファーウェイ、中華電信、中国電信、中国移動等世界的な大手電気通信事業者が含まれ、その地位及び影響力も軽視できません。

TR-398規格の定義
TR-398は、IEEE規格802.11acに基づき802.11n/acのパス/フェイル要求を有する性能テスト基準を提供します。
TR-398は、802.11n/acのAP設備向けに開発されたテスト規格です。
対応する相互運用性認証プログラムは、Wi-Fiアライアンスの802.11n(Wi-Fi 4)及び802.11ac(Wi-Fi 5)です。

TR-398規格の重要性
TR-398規格は、業界初の家庭用消費型AP Wi-Fi性能テスト基準です。そのテスト項目が幅広い範囲をカバーし、テスト設置情報、使用設備及びテスト環境等設置関連のものが明確に定義され、テスト結果の判定(Pass/Fail Criteria)も明確することで、ベンダーによる室内ホームゲートウェイのWi-Fi性能テストを効率的にサポートできます。また、このテスト基準は、Routerベンダー(ARRIS、CALIX)と世界的な電気通信事業者の主導により、システム的に室内Wi-Fi設備の性能が評価され、重要KPIとして受信機感度、帯域幅、カバー範囲、マルチユーザーサポート、干渉回避及び安定性という6つの性能指標に定量的に分けられ、将来家庭用Wi-Fiネットワーク接続パフォーマンスの統一テスト基準となります。

TR-398規格の6つの性能指標

TR-398規格の6つの性能指標

市場調査報告書によると、一般ユーザーの最も主要なインターネット接続場所は自宅内であり、現代のホームネットワーク利用は、メッセージのやり取り、オンライン動画・生放送の視聴、音楽視聴、オンラインゲーム、フォーラム閲覧が主となります。しかし、様々なタイプのネットワーク機器の増加、及びユーザーが様々な無線装置を使用する習慣の違いにより、室内Wi-Fiの性能に新しい局面を迎えました。自宅内で複数のスマートデバイスをネットワークに同時接続、或いは数人が同時にオンライン動画及びオンラインゲームを利用する場合に対して、ルーターの安定性、処理パフォーマンス及びマルチタスク割り当ての能力が益々高度に求められています。

ネットワーク品質パフォーマンス要求
帯域幅遅延1080Pビデオ4Kビデオオンラインゲームスマートホーム
>10M
<20ms
>25M
<10ms
>5M
<10ms
>1M
<50ms

ルーターの利用リスクによりユーザーエクスペリエンスが悪くなりますか
次の状況に陥った時、デバイスの伝送速度の低下やAPとの接続中断になる可能性があります。
1. 電波を弱くさせるいくつかの特殊な接続角度
2. 複数のデバイスがAPに同時接続
3. 最大の伝送パフォーマンスを提供できないいくつかのチャネル
4. 速度が比較的遅い802.11a/b/gのデバイスと速度が比較的速い802.11n/acのデバイスがAPに同時接続
これらの状況の発生により、ユーザーエクスペリエンスに影響を与えないように、完全なパフォーマンステストは必要不可欠です。

 

TR-398規格の影響範囲

一番影響を受けるのは電気通信事業者(中華電信、AT&T、中国聯通及び世界各国の電気通信事業者)です。ユーザーに直面する電気通信事業者は、使用するAP次第で直接大量の顧客からリアルタイムのフィードバックを受けます。

その次はAP製造業者(Netgear、D-Link、Linksys及び他の世界的に有名な大小規模企業)です。完全にAP向けに設計されたパフォーマンステストであるTR-398を通じて、統一規格が定められたため、製造業者として自社製品と他社製品間の差異を把握することができます。

最後に挙げられるのはネットワークに関連する機器ベンダーです。TR-398はAP向けに設計されたものですが、逆に言えば、APのGolden Sampleが定められると、テスト方法に従い全てのネットワーク関連機器にまで無限に広まることができ、その影響範囲は無限になります。

 

TR-398規格のテスト環境構築及び要件は、次に示す通りとなります。

テスト環境要件
記録項目テスト対象物、システム、トラフィック生成ソフトウェア、減衰器、シールドルーム、アンテナ等テスト環境の情報を記録すること。
ネットワーク有線ネットワークは、Giga bps以上の速度をサポートすること。
トラフィック生成ソフトウェア受信及び分析は、トラフィック生成ソフトウェアで完成させ、固定データパケットサイズのTCP及びUDPトラフィックが生成できること。
電波シールドルーム環境雑音信号パワーは、-100dBm未満とし、周波数スペクトルアナライザーで測定し、受信感度が少なくとも-103dBmとすること。
アンテナ外部アンテナを使用する場合、アンテナの方向は、水平面に垂直になるよう調整すること。
位置システムは、テスト対象物と同一の高さに置くこと

Figure 1:Single Chamber Implementation(出典:BBF TR-398 Test Plan)

 

次に、アリオンはBBF TR-398の6つのテストカテゴリー及びそのテスト項目を紹介します。今回はまずカテゴリー1:受信機感度のテストについて説明します。

 

テスト項目:

カテゴリー1:受信機感度(RF Performance

受信機感度のテスト(Receiver Sensitivity Test

受信機感度とは、受信機が弱い電波を受信及び正確に復調する能力を指します。このテストは、テスト対象物とシステムの間に挿入された総減衰に対する受信機感度の簡略化された測定を提供します。PERが10%上回るまで信号を継続して減衰し、この時の数値が受信機感度です。

テスト基準:

下表に示す通り、テスト内の測定平均値(全ての回転点間)の受信機感度(挿入減衰)は、必要な受信機感度以上でなければなりません。

Required Receiver Sensitivity for 802.11n & 802.11ac
Test IndexMCS IndexModulationApproximately Receiver Sensitivity (dB)
Required (Nss=2)
10BPSK56
2764-QAM38

ここまで読むと、TR-398規格に対してある程度の理解が得られたと思います。今後TR-398規格に関するテスト要点及びそのテスト要件について次回の技術記事で解説していきたいと思いますのでご期待ください。