十数年前に人々がネットで世界とつながった頃は、帯域幅の制限によりメール送受信とウェブサイト閲覧くらいしかできませんでしたが、ネット技術が飛躍的に進歩した現在では、より広い帯域、より速い伝送スピード、より安定して便利な伝送が求められています。SDHDからUltra-HD4K)に至るまでの動画送信、異なる端末でコンテンツを同時に再生できるストリーミング機能など、ネット通信の分野では高速多機能伝送の時代が訪れました。HomePlugMoCAHomePNAG.hnといった家庭用高速ネットワーク技術の中で、これからの市場を制するのはどの技術なのでしょうか? ここでは今年で満四歳を迎え、スマートホームの実現をリードし、ホームネットワークの基準となりうる規格「ギガバイトホームネットワーク(G.hnGigabit Home Networking)」についての概要を紹介したいと思います。

なお、アリオン(Allion Labs, Inc)は20148月にアジアで初の認証ラボとして、このG.hnを推進するHomeGridフォーラムより認定を受けた第三者認証機関です。更に詳細な情報や試験に関するお問い合わせにつきましては、当社営業部(service@allion.co.jp)までお問い合わせください。

G.hnとは?

G.hnとは、Gigabit Home Networkingの略称であり、ホームグリッドフォーラム(HGF :HomeGrid Forum)が国際電気通信連合標準化部門(ITU-T: International Telecommunication Union, Telecommunication sector)により制定された有線高速ネット通信技術の統一規格です。HGFは、世界各国の公的機関、システムベンダー、チップベンダー、サービスプロバイダーといった企業を含めた合計70社のメンバーによって構成されており、G.hnの開発運営を進めています。G.hnではユーザーとなる家庭において、電力ケーブル、同軸ケーブル、電話回線、光ファイバーを用いてネットワークを構築し、1Gbpsの速度でデータ伝送します。

G.hnの技術は既存のネットワーク技術をベースに確立されているものではない、全く新しい技術です。この技術の運用は既存のネットワーク設備に取って代わるものではなく「G.hnを選ぶか、他の技術を選ぶか?」を消費者に迫るものでもありません。G.hnの最終的な目的は、電力線、同軸ケーブル、CAT5ケーブル、光ファイバーの利用範囲を広げて、サービスの質を最大限にまで高めることです。ユーザーはG.hnのために内装工事して新たにラインを引いてくる必要はありません。G.hn規格のブリッジモジュールを家庭内の既存ラインに接続するだけで、高速ネット通信を楽しむことができるようになります。ですが、消費者としてはG.hnは既存のネット技術と共存しながら高速通信を実現できるのか、心配になるかもしれません。

HGFは今年、ラスベガスで行われた全米家電見本市(CES: Consumer Electronics Show)で、G.hnHomePNAで同時に使える同軸ケーブルを発表し、IPTVコンテンツを二枚のスクリーンに伝送して再生して見せ、G.hnの伝送能力と共存特性が実証されました。以下はCES会場における説明図です。

図1:CES出展図、資料出所:HomeGrid Forum Blog

http://homegridforum.typepad.com/homegrid_forum/2014/05/ghn-coexistence-with-hpna.html

G.hnは既存のネット技術と共存できるだけでなく、異なるラインを用いてネット接続すること(Adjunct Network)ができます。両者が相互に干渉することはありません。HomePNAが同軸ケーブルや電話線を使っているときは、G.hnは住宅には欠かせない電力線を利用します。ケーブルや電話線のない部屋でも、G.hnなら電力線を用いてネット接続できるわけであり、配線工事をするコストを節約できます。ITU-Tでは電力線利用の幅をさらに広げるため、G.hnと電力線通信技術(例:IEEE 1901)が共存できるG.cx技術を開発しました。この技術は、二つの異なるネット接続技術が一本のケーブルを共有して輪番で利用することを可能にするとともに、電力線利用のネックを解消するものです。

発電所から家庭内に供給される電力は安定して持続的に供給されることから、電力線通信技術(PLCPower Line Communication)は他の信号による干渉を受けやすくなります。特に住宅が密集しているアジアの都市では近所から発せられた信号による干渉が問題になりがちなのですが、G.hnでは高レベル演算法と信号作成技術が別のネットワークから送信された信号を排除し、自分の信号を識別して本来の機能を確保します。

共存、安定性、高速データ伝送、配線工事不要、カバー範囲の広さだけでなく、環境保護という見地から、HGFはシンプルな操作と低電力消費を兼ね備えたG.hn Liteを開発しました。この技術は、電力線の25 MHz帯域を用いて、同一ネットワーク内における複数のG.hn端末を連係させる技術です。たとえば、テレビのリモコン装置を使って照明の電源を操作したり、家庭内のセキュリティ関連装置を操作したりすることができます。この手の家電応用はいずれもG.hn Liteの潜在市場となり、協会もG.hn Lite認証をスタートしました。広帯域の2-100 MHzは主に映像伝送のG.hnに、25 MHzG.hn Liteはスマートホーム機能に特化することになります。

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図2:G.hn-Lite認証ラベル

スマートホームのためのネット通信規格開発に力を入れると同時に、HGFは2013年5月にHomePNA Alliance(Home Phoneline Network Alliance)と提携し、国際的なネット通信標準と関連設備の適合性、相互運用性を認証するプログラム(Compliance and Interoperability program、C&I)を推進しています。

G.hnコンプライアンス認証プログラムが正式スタート

ロゴ認証を取得した製品は、HGF規格に適合しているだけでなく、ネット関連設備との相互運用性が確保されていることを示します。アジアで最初のホームネットワーク向けG.hn製品の第三者認証試験機関であるアリオン(Allion Labs, Inc)は、国内外の製品ベンダーが迅速にG.hn試験をパスし、認証を取得できることをサポートします。ここでは二つの主な認証試験を紹介しましょう。

適合性試験(チップ製品対象)

チップが対象の適合性試験はG.hnの主要技術であり、基本的なネットワークから演算レベルの高さをカバーするとともに、他の信号との干渉を避ける設計とするため、ソフトウェアやファームウェアの協会基準への適合性などが含まれています。

製品認証試験(システム製品対象)

ロゴ使用の前提条件となるG.hnシステム認証試験は、G.hn認証のチップが搭載され、相互運用性と性能が確保されている必要があります。相互運用性とは、同一ネットワーク上でシステムが他のG.hn機器と相互に連係して運用できることを指し、性能とはデータのやり取りの量を指します。通常の大型システム工場では、機能とシステム試験が主であり、チップのみの試験はあまり行われません。HGFのチップ適合性試験は、のちのちG.hn機器とチップの間に相互運用性の問題が発生しないようにするためのものであり、特にリソースの限られた中小のサービスプロバイダーにとって時間とコストの節減となります。

市場の動向

今のところ全世界で22のシステムベンダーがG.hn市場参入に名乗りをあげています。ここには、ArrisBlu-CastleCIGD-LinkGemtekNetwaveST&TTeleconnectUbiquossZTEZyXELといった会社が含まれ、チップ設計会社はMarvellSigma DesignsHisiliconMetanoiaTriductorXingteraがあります。台湾工業技術研究院は、G.hn需要はどんどん大きくなり、今後四年間でG.hn機器の市場は6.67億ドルにまで成長する、と大胆な予測を立てています。

今年、HGFはアジアから世界に向けて展開します。アジアはグローバルな通信機器メーカーが集中しているとともに、中華電信といった企業もアジア市場で積極的に展開しています。中華電信は2014年にG.hn化を推し進め、300 M光ファイバーを用いた家庭向け高速ブロードバンドサービスを開始しました。HGFは、4月の上海技術フォーラムから6月の台北国際コンピュータ見本市(Computex)まで、複数の異なるラインを運用するG.hnを展示しました。Computex開幕フォーラムでは、台湾の康全電訊(Comtrend)がHGF認証のシステム機器を発表し、Marvell社はマルチ入力マルチ出力(Multi-input Multi-outputMIMO)のホームネットワーク専用チップ供給業者として初のG.hn認証取得会社となり、G.hnホームネットワークのカバー範囲を広げ、データやり取りの実効速度を高めています。

G.hnは、同軸ケーブル、電話線、電力線を用いた高速ホームネットワークの統一規格であり、相互運用性、安定性、1Gbit/s高速伝送、配線工事の必要なし、近隣設備への悪影響なし、といった特性により、家庭向け通信サービスプロバイダーにとってスマートホーム環境構築の焦点となっています。G.hnがもつ数多くの強みとして、米国のIPサービスプロバイダーであるComcast社はITPRoPortalサイトにおいて、「将来のワイヤレスWi-Fi接続は、G.hnをハブにして屋内の端々に至るまで利用可能になる」という主旨の技術関連情報を発表し、G.hnテクノロジーの多様な発展性を示しました。

技術は人が中心となって発展していくものです。近い将来、エンドユーザーはG.hn製品を買うだけで、簡単に高速ネットワークを利用できる時代になるかもしれません。

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