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そのバッテリーは大丈夫? 値段だけではない製品選び

2017年9月11日午後、東京のJR山手線神田駅で男性が背負っていたリュックサックが発火する事故が発生しました。リュックに入れていたモバイルバッテリーが原因とみられ、男性は「秋葉原で安いものを買った」との事でした。モバイルバッテリーが原因とみられる同様の事故は、2016年12月にもJR山手線で起きています。 このような事故を、アリオンは技術的な側面から考察してみました。 モバイルバッテリーは、内部に電池を持ち、携帯電話への充電機能をもつ充電器の一種です。その構造は、図1のように内部電池への充電部(以下 充電部)、内部電池、携帯電話への給電回路(以下 給電部)の3つの機能に分けられます。 図1:モバイルバッテリーの構造 充電部は、AC100VかUSB電源に接続され、モバイルバッテリーの内部電池を充電する機能を持ちます。内部電池は、モバイルバッテリーの主要部品であり、繰り返し充電が可能な二次電池が用いられます。ここに蓄えたエネルギーを使って携帯電話を充電しています。電池には、大容量のリチウムイオン電池などが利用されますが、充電時の温度管理や携帯時の落下衝撃などへの対策が必要です。 給電部は、内部電池のエネルギーを変換し、携帯電話への給電(充電)を行います(一部のモバイルバッテリーは、充電部と内部電池ではなく、乾電池などの一次電池を用いるものもあるが、今回の事故品とは無関係なので割愛)。 昨今、携帯電話の充電にはUSBポートを使用するのが一般的ですので、USB規格に従った電圧、電流設定が必須であり、急速充電の場合には携帯電話の充電プロトコルへの対応が必要となっています。 今回のような、「安価なモバイルバッテリー」の場合には、どのような点に問題があるかを推測してみます。充電という機能に着目すると、大容量の内部電池と急速充電ができる大電流に対応した給電回路があれば、携帯電話を長時間使えて急速充電ができるモバイルバッテリーを実現できるはずです。一方、安全面に配慮した場合には、モバイルバッテリーを落とした際に内部電池を保護できるような耐衝撃の構造と、内部電池を放電あるいは充電する場合に、電池の放電(充電)状態に応じた電流の管理、温度を監視する保護回路が重要となります(図1の赤字の部分)。 安価な製品の場合、メーカーは機能面についてはコストを払いますが、安全面についてはユーザーの注意に依存して配慮しない場合があります。つまり、発生するか不明な事故に対しては、コストをかけないことで安価な製品を実現している場合があるのです。 モバイルバッテリーをリュックの中に入れて長時間使った場合には、内部で発生した熱が逃がせず、高温になってしまう危険性があります。この熱は内部電池の放電と給電回路により発生します。給電回路の設計が携帯電話の充電特性とあっていない場合には給電効率が低くなり、給電効率が低い場合、内部で熱となります。 保護回路が適切に実装されている場合には、内部電池の温度上昇を検知して、携帯電話への給電を止める、または電流を小さくなるように設計されるはずです。これが図1における「安全のためのフィードバック」系、つまり保護回路です。しかし、このような保護回路が実装されていない、または設計が不適切な場合には、電池が発熱しているにも関わらず給電が継続され、さらに温度が上昇してしまいます。 ほとんどのモバイルバッテリーは、使用温度は0から40℃となっていますが、温度に対する保護回路がない場合には、内部電池の異常な状態になっても給電が継続されます。ユーザーは、このような異常に気付けなかった可能性が大きいと予測します。   今回(2017年9月)の事故では、内部電池が放電し、携帯電話へ給電している状態なので、図1における給電部、内部電池に問題があった可能性が大きかったと考えられます。 安価な製品の場合には、内部電池そのものの信頼性や、寿命の問題もあります。繰り返し使う中で、内部電池に既に問題が起きていた可能性も十分考えられます。しかし、電池の異常にはユーザー自身が気づくことは難しいため、内部に適切な保護回路があれば「充電が出来ない」という故障状態となり、事故前に使用が中止され、未然に事故を防げたことでしょう。 [...]

【特別企画】MCPC×アリオン モバイル充電安全認証 三者鼎談

アリオンはモバイルコンピューティング推進コンソーシアム(以下MCPC)から、MCPCが推進する『モバイル充電安全認証』の日本で最初の指定認証機関として2016年8月4日に正式認定を受けました(参考記事)。規格策定の裏側には、MCPCとアリオンによる、およそ2年に渡る協議がありました。アリオンはモバイル充電安全認証規格の立案初期段階から、MCPCモバイル充電技術WGメンバーとともに規格の策定と、認証試験開始の準備を進めていました。このたび、認証試験の開始にあたり、充電安全認証規格のキーマンであるMCPC幹事長兼事務局長である畑口氏と、MCPC技術委員長である小熊氏の両氏を本社にお招きし、モバイル充電安全認証について三者鼎談を実施しました。   ───『モバイル充電安全認証』策定のきっかけとは 中山:本日はどうもお忙しいところありがとうございます。モバイル充電安全認証をMCPCさんと進められることは、我々としても大変喜ばしいことです。 畑口:今回のように試験サービスとして開始できるというのは、MCPCにとっては最も理想的なやり方だと思います。アリオンさんで実施していただけるということで、中山社長にはとても感謝しています。 中山:こちらこそ、ありがとうございます。今回開始するモバイル充電安全認証についてですが、どのような背景があって規格策定を進められたのでしょうか。 畑口:モバイル充電安全認証は、国民生活センターにスマートフォンの充電時に事故が発生するといった報告があったことが大きな後押しとなり検討を進めていきました。当時、通信事業者の方からMCPCで検討できないか、というお話を受けまして、MCPCとしてもエンドユーザーのために何ができるかを検討する必要がありました。 小熊:事故が発生し始めた背景には、コネクタ形状の変化があります。携帯電話・スマートフォンの充電端子がUSB Micro-Bに代わり、以前の携帯電話で使われていたコネクタ形状から小さく複雑に、そしてグローバルになっていきました。そのため、ユーザーが今までと同じようにコネクタを使っているとハーフショートといった新しい種類の事故が発生する可能性が高まった点が挙げられます。 中山:なるほど。今回、この認証試験を開始するのと同じタイミングで、USB-IFでも『Power Delivery』という給電に関する規格や、『Type-C』と呼ばれるリバーシブル挿抜できるコネクタが登場しました。特に、Type-Cは話題性が高い規格です。コネクタの形状が変化しますので、これを機にUSBインターフェースの充電安全認証について、今後ますます必要になってくるものだと考えています。 小熊:最近だと、スマートフォンの急速充電に対応した充電器が登場しており、扱われる電力が大きくなっています。ですから、それだけ充電器が供給するパワーも強くなります。こうした状況で、仮にショートを起こすとすると大事故になりかねません。 中山:先日、海外大手家電メーカーの新しいスマートフォンで爆発事故が発生したことが記憶に新しいですね(参考記事)。これからは、急速充電に対応した製品がどんどん市場に登場する一方で、十分に検証を行わずに販売した結果、ユーザーの安全性に悪影響を及ぼす製品も販売されてしまうことでしょう。 小熊:モバイル充電安全認証では、実際にユーザーの使い方によって起きる事故の対策を順次取り入れて認証を進めたいと考えています。現在はハーフショートが主な対策となっていますが、今後も新しいコネクタ形状であるType-Cなど、種類によって取り扱い方が変わってくると思いますので、都度対策を考えたいと思っています。   [...]

充電問題か?USB Type-C Power Delivery充電試験

あるGoogleのエンジニアが、オンラインストアで販売されていたUSB Type-Cケーブルの試験を行ったことで、思いもよらない災難を受けることになりました。使用したケーブルが基準に準拠していない設計だったために、Chromebook Pixelに接続して試験を行った際、そのPCを破損させてしまいました。ケーブル内のワイヤのハンダ付けが間違っていたことにより、電流が間違った場所(orピン)に流れてしまったことが原因でした。また今年の2月に、Appleは2015年6月以前に生産されたケーブル設計に欠陥があったとし、Apple純正USB Type-Cケーブルの回収を行いました。該当するケーブルだとMacBookに充電できないか、あるいは充電が途切れる現象が発生する可能性がありました。 USB Type-Cは、上下リバーシブル挿抜、最大10Gbpsに対応などが特徴です。また、USB Power Delivery(PD)を適用することで、充電とデータ送信を個別にサポートすることができます。BC1.2では7.5Wだった電力供給量が、PDでは最大で100Wと飛躍的に向上しています。USB-IFの充電規格以外ではUSB Type-CはQuick Charging(QC)にも対応しています。映像関係だと、Alternate Modeでは1本のケーブルでDisplayPort映像信号の出力ができます。このため、従来のUSB規格と比較してケーブルの構造が非常の複雑になっています。ケーブル・コネクタメーカーは開発段階でUSB-IFの仕様に準拠が必要のほか、製品品質と安全設計を確保しなければなりません。さらに、自社のType-C製品(ケーブル含む)が様々な使用状況下でスムーズに動作できるかどうかを検証し、電源供給能力の異常、システムの停止、コンポーネントへの影響など、不測の事態が起きないよう注意深く調査する必要があるのです。   図1. USB Type-Cエコシステム [...]