ワイヤレス給電技術の業界団体のひとつであるA4WP(Alliance for Wireless Power)は、今年のCES2014でコンシューマー向けのブランドネーム「Rezence」(レゼンス)を大々的に発表しました。第一世代の懸念点だった材料と距離的な制限問題を克服し、最適化された磁界共鳴方式の採用により、広域かつ長距離での給電を複数機器に対して同時に可能となり、ワイヤレス給電の柔軟性が向上しました。加えて、A4WPPMAPower Matters Alliance)との提携を発表し、二つの給電方式、「磁界共鳴方式」と「電磁誘導方式」を協同開発に関する合意書に署名しました。この提携は、会員数でも市場販売数量でも業界をリードしているWPCWireless Power Consortium)にとって明らかな脅威となりました(これら3つのワイヤレス給電の業界団体に関する更なる情報については、アリオンのトレンド速報「ワイヤレスチャージングが開く新しい世界」をご覧下さい)。

WPCA4WPPMAという3団体が激しく対立している原因は、各団体が発表した給電規格の原理が異なることにより互換性が確保できない点にありました。この団体間での非互換問題は市場の混乱を招き、市場を限定してしまうことに繋がります。ワイヤレス給電業界において、電磁誘導方式と磁界共鳴方式があることは、両者の統一に大きな障害となる技術的な問題になっています。

現在のトレンドとしては、WPCが最多の会員数を擁する業界団体であり、対応製品の市場投入も順調です。また、WPCは電磁誘導と磁界共鳴の両方に対応したワイヤレス給電技術の標準化を進めています。このような積極的な活動は、磁界共鳴方式を推進するA4WPと、電磁誘導方式を推進するPMAに対する脅威となることでしょう。こうした危機意識がA4WPPMAを共同開発に向かわせる間接的な契機となりました。二つの団体が持つ技術が共有されれば、WPCの牙城を切り崩す対抗馬になり得ることでしょう。

WPCが発表しているワイヤレス給電の標準規格「Qi」は現段階においてもなお、距離的な制限がある、給電能力が5Wに限られている、EMIの影響を受けやすい等々、全体の運用プロセスとしては安定していない点があります(「Qi」についてアリオンではWPCワイヤレス給電試験を実施しました。詳細はThe new Era of Unlimited Battery Charging Technology: Allion Wired & Wireless Charging Test & Evaluation Report[英文]をご参照下さい)。これとは対照的に、A4WPPMAは提携によってBluetooth 4.0NFCNear Field Communication)技術を利用した高周波信号を発展させ、複数の方式に対応した技術開発を促しています。A4WPは最初に磁界共鳴をワイヤレス給電ブランド「Rezence」の標準として定めた団体であり、PMAは米国内のスターバックスとマクドナルドにワイヤレス給電パッドを供給することで、室内で使い勝手のよいサービスを提供しています。このことから、A4WPPMAが提携を結んだことは、両団体が消費者市場の主導権を握るチャンスを得たと言えるでしょう。互換性の効率化と技術の簡易化により、A4WPPMAの提携はワイヤレス給電業界にとってWin-Winの関係となるでしょう。

<合意書の内容>

PMAは、送電側(TX)と受信側(RX)に対して、シングルモード・マルチモードの如何に関わらず、A4WPの磁界共鳴方式である”Rezence”を標準規格とする。

A4WPは、電磁誘導方式の標準規格を採用し、電磁誘導と磁界共鳴の各方式に同時対応する。

A4WPおよびPMAOpen Network APIの研究開発を協同で進めることで、全てのワイヤレス給電サービスを管理する。

上記内容からは、A4WPPMAは電磁誘導と磁界共鳴の給電方式をお互いに共有することになることが伺えます。磁界共鳴方式は、例えば電気自動車を充電するような、比較的遠距離でのワイヤレス給電を可能にしました。一方、電磁誘導方式は、携帯電話、タブレットのようなモバイル機器や車載機器などに適しています。

しかしながら、双方の団体は技術の統合と規格の標準化について保証していません。磁界共鳴方式と磁気誘導方式の間で一定の技術的な差異がいくつか存在するためです。差異とは、まずは周波数の問題です。A4WPが採用している周波数は6.78MHzと高い帯域であり、今後はその2倍の13.56MHzを使用する計画を提唱しています。一方、PMAが採用している周波数帯域は200400kHzです。両者の周波数帯域は明確に異なるため、歩み寄りの難しい問題の一つとなっています。次は動作距離の問題です。A4WPの磁界共鳴方式ではある程度の距離で動作できますが、PMAの推進する電磁誘導方式では現状だと最長でも10cmの距離でしか給電できません。このように、技術的にまだまだ課題が残っています。

ワイヤレス給電技術の発展と関連試験の研究開発に力を注いできたアリオンは、A4WPの開催したプラグフェストに招待され参加しました。今回のプラグフェストを通じて、アリオンはA4WPと参加企業に交わり意見交換を行い、いくつかの提言をしました。たとえば、安全性を確保するためにデバイスが異物や温度、重さを検知する機構を提供できるかという検討課題の提案です。こうした提言は開発メーカーにとって有意義な情報であるだけではなく、将来的な認証試験における潜在リスクでもあります。また、A4WPは電源管理の更に進んだ技術を実現するため、磁界共鳴給電とBluetoothの融合を視野に入れています。複数のモバイル端末が同じエリアに入った際に、各端末はBluetoothを通じて送電側と結合することができます。デバイスの充電完了時にはBluetoothを通じて送電側に通知が発信され、充電が停止できるようになります。これにより効率的な電源供給が可能となることでしょう。

Rezence」の発表はA4WPがワイヤレス給電規格の標準化に向けた準備を完了したことを示します。しかし、当社が把握している限り、通信プロトコル上の接続問題がRezenceBluetoothに介在するようです。製品開発メーカーが効率よく製品品質を向上させるためには、将来的には専門的な試験期間の技術支援が必要となることでしょう。WPCに関して言えば、欧米市場以外では日本メーカーでの採用が進んでおり、アジア市場における勝利のチケットを手にしていると言えるでしょう。A4WPにとってもアジアは見逃せない市場です。ワイヤレス給電検証のエキスパートでありBluetooth SIG認定の認証試験所(BQTF)でもあるアリオンは、今後もワイヤレス給電の最新動向に追随してまいります。