2018年の年末からHDMI 2.1認証が開始され、eARC、FRL、DSC、VRRなどのテスト規格が次々に定められ、HDMI 2.1製品への認証規格はますます充実してきました。アリオンはHDMI Forum認定の認証テストセンター(Authorized Test Center、略ATC)としてこの4年間にわたり、数多くの大手企業やODMメーカーのHDMI 2.1対応製品が認証試験に合格できるようにサポートしてきたことで、豊富なテスト経験と実績を蓄積しています。本記事は、HDMI 2.1 Source機器の認証テスト時によくある問題点についてご紹介します。

 

紛らわしいHDMI 2.1バージョン

認証テストを実施する際によくある問題について共有する前に、HDMI 2.1とHDMI2.0のバージョンについて整理しておきましょう。HDMI 2.0は2014年にリリースされ、4K@50/60Hz、アスペクト比21:9 の映像サポートと静的HDR機能が追加されました。 一方、2018年にリリースされたHDMI 2.1では、8K、4K@100/120Hzの映像サポート、VRR、動的HDRなどの機能が追加されています。

HDMI 2.1の規格書で、HDMI 2.1で追加された機能と既存の HDMI 2.0の機能が統合されました。つまり、HDMI関連製品が最大で4K60Hzに対応していようが、8K60Hzに対応していようが、どちらもHDMI 2.1の認証を取得していると宣言できる扱いになっています。

しかし、それでは消費者は購入したHDMI 2.1製品が4K@60Hzに対応しているのか、8K@60Hzに対応しているのか分からず、混乱させてしまいます。そのためHDMI LA (HDMI Licensing Administrator, Inc.)は、メーカーにHDMIのバージョンのみをパッケージや説明書に記載するのではなく、HDMIのバージョンに機能も一緒に記載することを推奨しています。例えば、“support HDMI 2.1”と記載するのではなく、”support HDMI 2.1 8K@60Hz”と記載するよう推奨しています。メーカーの曖昧な記載による誤解や混乱を避けるためには、期待通りのHDMI機能が備わっているか、消費者が購入する前に製品のスペックをきちんと確認できるようにすることが重要です

 

新しい伝送モードFRLにより電気テストのプロセスが追加された

HDMI 2.1では従来のTMDSモードの他に、FRL (Fixed Rate Link)という伝送モードが新しく追加されました。1レーンあたりの伝送帯域幅がTMDSでは6Gに対しFRLでは12Gに向上しています。伝送速度向上により信号の減衰量も増えるため、電気特性テストのアイパターンが不合格になりやすくなります。当社の長年のHDMI認証経験から言うと、HDMI Transmitter ICとコネクタ間のトレースが長い場合は、Re-Driver ICを1つ追加して、調整可能なEQで信号の減衰の補正を行うことを推奨しています。

図1:電気特性テストのアイパターン(Fail例)

FRLの電気特性テストのプロセスはTMDSとは異なります。TMDSの電気特性テストではSource機器が正確にEDIDを読取れれば、TMDS信号を出力することが可能なので、EDIDエミュレータの代わりにモニターを使用することは問題ありません。しかし、FRLの電気特性テストでは、Source機器はEDIDを読取る以外に、Link Trainingプロセスも必要となるため、モニター側でこのプロセスをシミュレーションすることができません。

アリオンではこの課題を解決するためにSCDC/EDIDエミュレータ「AJSC-1」を自社開発しました。このツールはHDMI Forumに認可され、FRLの電気特性テストに使用することができます。Link TrainingもKeysightおよびTektronixのオシロスコープソフトウェアにプログラミングされており、FRL電気特性テストの自動化が実現できます。さらに、「AJSC-1」はTMDS電気特性テストにも使用することが可能で、EDIDの内容をSourceの規格に基づいて編集可能で、電気特性テストに適したモニターを探す手間を省くことができます。

図2:SCDC/EDIDエミュレータ「AJSC-1」利用時のイメージ

 

認証テストによる動作判別必須!Source製品なら知っておくべき新しい認証規格「HF-EEODB」

HDMI 2.1規格には、FRLだけでなくEDIDにおいて、Block Mapに取って代わる、HF-EEODB(正式名称:HDMI Forum EDID Extension Override Data Block)のEDIDアーキテクチャが新しく追加されました。CTA (Consumer Technology Association) SPECの更新に伴い、HDMIはより多くの映像関連機能に対応できるようになり、2 BlockのEDIDだけでは足りなく、3 Block使うケースも増えてくると見込まれます。HDMI 2.1規格がリリースされる前は、3 BlockのEDIDを使う場合は、Block 0の後にBlock 1を一つ追加してBlock Mapとする必要がありました。Block MapはExtension Blockの数量を指定するためのもので、その他の映像情報などを書き込むことはできません。そのため、Block Mapを使用する場合は、Blockが4つあったとしても、実際に映像情報を書き込めるBlockは3つのみです。HF-EEODBはBlock Mapとは異なり、Block 1のByte4~Byte6にてExtension Blockの数を宣言するだけで良いので、EDIDを格納するEEPROMを使用する上でHF-EEODBはメモリ容量の節約になります。

モニター(Sink機器)のメーカーにとっては、Block MapとHF-EEODBのどちらを使用するかは自由に選べるものですが、Source機器側のメーカーからすると、接続するモニターにBlock MapとHF-EEODBのどちらが使用されているかを想定することができないため、認証テストでどちらでも正確に 判別できることを確認する必要があります。

Block MapはHDMI 1.4bから存在しているため、Source機器のメーカーにとっても特に問題はないと思いますが、新しい規格であるHF-EEODBはメーカーにとって製品開発時の課題の1つと言えるでしょう。

図3:HF-EEODBのEDIDコンセプト

 

4K、8K対応のための3つのルール

続いてHDMI 2.1規格において4Kおよび8Kに対応する上でのルールについてお話しましょう。

HDMI 2.1規格は4K@100/120Hzと8K@50/60Hzの映像の使用に対する明確なルールが定められています。それは、指定されているVICに必ず対応すること、さらにはYCbCr4:2:0とColor Depth 10 bitに対応するというルールです。ここで4K@100Hzを例に説明します。4K@100Hzの映像に対応しているSourceがあった場合、それはCTAにより定義されているVIC117、3840x2160p100Hz (16:9)に対応している必要があります。VIC119も3840x2160p100Hzですが(アスペクト比は21:9)、VIC119に対応する場合は同時にVIC117にも対応する必要があります。

これは互換性が考慮されたルールです。HDMI 2.1規格でルールが定められていなかった場合、4K@100Hz、VIC117に対応していると謳われているモニターと4K@100Hz、VIC119に対応していると謳われているSourceであるノートパソコンがあったとして、この二つを接続させても、対応している4K@100Hzの規格が違うため 4K@100Hz画面を表示することができないという問題が発生します。そして「指定されたVICのほかに、4K@100Hzでは同時にYCbCr4:2:0とColor Depth 10 bitに対応する必要があります」というのが見落としがちなポイントです。

4K@100HzをYCbCR4:2:0で出力するのに必要なTMDSキャラクターレートは594Mcscであり、従来からのTMDS対応可能帯域幅である600Mcsc以内に収まります。このため、HDMI TMDSデバイスは4K@100Hzにも対応可能であると勘違いする人もいます。長年のHDMI検証実績がある当社から言っておきたいことは、着目すべきは4K@100Hzはもう一つの前提条件として、同時にColor Depth 10 bitに対応していなければならないということです。Color Depth 10bitに対応するには、8bit時の帯域幅594Mcscの1.25倍である742.5Mcscが最低限必要な帯域幅となりTMDSの帯域幅上限を超えてしまうため、FRLでないと対応できないということになります。テスト規格書には上述のルールに対して、関連のテスト項目が定義されています。現在、テストにおいてよくある状況としては、CDF(Capability Declaration Forum)にてVIC117に対応しないと宣言すれば4K@100Hzに対応していないに等しいと勘違いするSource機器のメーカーがあることです。テストの一環であるネガティブテストのプロセスで、設備のEDIDにVIC117が備わっているかどうかを測定します。もし、Source機器側で確実にVIC117の映像出力能力をOFFにしていなかった場合、テスト中にSourceはVIC117を出力し、不合格と判定されてしまいます。解決方法としては、Source機器の動作をCDFと一致させることです。もし、Source機器がTMDSにのみ対応しており、4K@100Hzに対応していないのであれば、CDFで対応していないと宣言する他、4K@100Hzの出力機能を非対応とする必要があります。

 

ネガティブテストにおいて EDID出力は相応の解像度に注意すべき

HDMI Forumは現在新機能のテスト規格書の制定に力を入れている他、既存の旧機能に対しても修正および手順の追加を進めています。比較的目に付くのはネガティブテストを追加したことでしょうか。YCbCr4:2:0のテストを例に説明すると、測定器側ではEDIDの420 Video Data BlockにVIC96、 97などの解像度を追加し、Source機器が相応のYCbCr4:2:0解像度を出力できることを確認します。続いて、ネガティブテストを行います。EDIDの最大TMDSクロックを元々の297MHzから290MHzに変更し、Source機器がYCbCr4:2:0解像度を出力できないことを確認します。YCbCr4:2:0解像度の帯域幅は297MHzなのですが、1.4b 規格の規範ではSource機器側はSink機器側の最大TMDSクロックの解像度を上回ってはいけないとあり、Source機器が420 Video Data Blockに相応する解像度を読取ったとしても、出力をしてはいけないのです。もう一つのネガティブテストの例は静的HDRです。測定器がEDIDのColorimetry Data Block、byte 3にて0x20あるいは0xC0を宣言し、Source機器が出力できるHDR信号を確認します。続いて、ネガティブテストを行い、byte 3を0と宣言し、Source機器が出力した信号がHDRに対応していないことを確認します。

 

HDMI認証テスト内容を事前に把握することで認証取得はより迅速に!

現状、HDMI2.1認証試験の内容はおおよそシーズン毎に一回は更新されています。主にプロトコルの測定項目の追加で、テストの規格はコンプライアンステスト規格書(Compliance Test Specification)から来ています。コンプライアンステスト規格書は更にGeneric Compliance Test Specificationに基づいているため、認証テストのスピードアップとミスを減らすためには、Generic Compliance Test Specificationの試験内容を予め把握することが必要で、HDMI Forumから発表される情報に注意を向けたり、アリオンに連絡していただき、最新情報やHDMI規格に関する問い合わせなどで情報を得ることです。

本記事の内容やHDMI認証に関してご質問などございましたら、アリオンのお問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。