Allion Labs/Cache Her

前回紹介した記事に続いて、今回はセットトップボックスに使用するアンテナの違いによるワイヤレス通信のパフォーマンスを実測した結果について共有いたします。

昨今のワイヤレスネットワークデバイスは8割以上がアンテナを2本(Main and AUX)使用していますが、メーカによって製品のコストダウンや設計を考慮し、あえてアンテナ1本で製品を設計しているものもあります。通常はアンテナ2本の方が、データ転送能力がアンテナ1本より速く、その転送能力は倍ほどとなっています。しかし、全ての製品においてそこまで高い転送能力を必要とするとは限りません。例えば、スマートスピーカー、スマート家電、IoTなどの設備はアンテナ1本だけで十分に需要を満たすことができます。

本記事では、製品評価の実測データを通して、エンドユーザーが製品を使用するうえでどのように感じるか解析していきたいと思います。

市販されているセットトップボックスは、アンテナ1本のものが非常に少ないのが現状です。今回の試験を実施するには、提携パートナーの協力をいただいて、アンテナ1本と2本の製品を無事に手に入れました。

以下は今回の検証テストの対象としています。

図1:テスト対象製品の外観とアンテナスペック

今回の検証テスト項目は:

  1. 送信と受信テスト(Maximum Throughput)
  2. 距離と速度(Range Venus Rate)
  3. ネット渋滞への対抗能力(Congestion)
  4. 総合無線性能評価(OTA TRP/TIS)

以下、順次に紹介いたします。その他の要因による干渉ノイズが検証テストのデータに影響しないよう、全てのテストはシールドルームで実施しています。

 検証テスト項目1:送信と受信テスト(Maximum Throughput) 

まず、送信と受信速度テストは主にセットトップボックスの最大送受信能力を確認します。セットトップボックスの主な用途としては、ストリーミング動画配信サービスの動画視聴のため、最低でもストリーミング動画を視聴するための要件を満たすべきです。下記に各ストリーミングサービスが推奨するインターネット接続速度のニーズをまとめ、4K/UHDの25Mbpsを標準値として比較してみました。

図2:各ストリーミングサービスが推奨するインターネット接続速度比較表

以下のグラフからテストの結果について説明します。図3は2.4GHzと5GHzにおけるストリーム1×1と2×2の低中高チャンネルの受信能力の比較です。ストリーム1×1と2×2の最大ダウンロード量はどちらも4Kストリーミング動画配信の推奨速度を満たしています。2.4GHz帯域では1×1の最大ダウンロード速度が約110Mbps (40MHz)、2×2の最大ダウンロード速度が約220Mbpsとなっており、上述したように2×2の限界速度は1×1の約2倍となっています。5GHz帯域では1×1の最大ダウンロード速度が約300Mbps (80MHz)、2×2の最大ダウンロード速度が約440Mbpsとなっており、なかなかの速度パフォーマンスを得ていることがわかりました。

図3:2.4GHzと5GHzにおけるストリーム1×1と2×2の低中高チャンネルの受信能力

図4は2.4GHzと5GHzにおけるストリーム1×1と2×2の低中高チャンネルの送信能力の比較です。アップロード速度のパフォーマンスはたいていダウンロード速度と同等くらいですが、セットトップボックスのような製品の性質上、アップロードを使う機会が少ないと考えられます。

図4:2.4GHzと5GHzにおけるストリーム1×1と2×2の低中高チャンネルの送信能力

 検証テスト項目2:距離と速度(Range Venus Rate) 

続いて2台のセットトップボックスのワイヤレスデータ転送量と距離に対してテストを行いました。減衰器を用いてワイヤレス信号強度を変えて、異なる距離をシミュレーションします。減衰値が高ければ高いほど、セットトップボックスと無線アクセスポイントの距離が遠いことを表しています。セットトップボックスと無線アクセスポイントの信号の接続が切れるまで、徐々に減衰値を上げていきます。2台のセットトップボックスの測定結果を以下のグラフに表しました。

15dBに減衰するまでは1×1も2×2も最大速度を維持していますが、15~21dBまで減衰すると、1×1は依然と速度を維持している一方、2×2の速度は徐々に下がっています。そして30~36dBまで減衰すると、1×1の速度も徐々に下がり始めましたが、2×2は速度を維持しています。最後に42dBまで減衰すると(セットトップボックスが実際に受信している無線アクセスポイントの信号強度は-65dBm)両台とも速度は25Mbpsほどとなっています。セットトップボックスと無線アクセスポイントの距離に換算すると、およそ2~3部屋分の距離なら4Kの画質を維持することができ、一般の家庭で使用する場合、あまりにも極端な場所に設置しない限り正常に動画を視聴することができると推測されます。

図5:2.4GHz ワイヤレス受信(RX)データ転送量

図6:5GHz ワイヤレス送信(TX)と受信(RX)データ転送量

 検証テスト項目3:ネット渋滞への対抗能力(Congestion) 

セットトップボックスのネット渋滞の対抗能力を見てみましょう。ワイヤレス信号はそこら中に存在しており、シールドルームなどで遮断しない限り、必ず様々な干渉信号が存在します。一般家庭におけるワイヤレス通信の渋滞値は約20%~30%程度で、会社・事務所などの環境では約30%~60%程となります。なお、ワイヤレスネットワーク通信は衝突回避方式で行われるため、ワイヤレス信号の干渉が多いほどワイヤレスネットワークのデータ通信量は下がってしまいます。

シミュレータでそれぞれ20%、60%、80%(極端な渋滞環境)の干渉信号を生成した結果、図7と8のように理論に沿ったデータが得られました。2台のセットトップボックス(1×1と2×2)のデータ転送能力は確かにワイヤレス通信の渋滞の程度が上がるにつれ下がっていますが、最も極端な環境下でも2台のセットトップボックスのデータ転送速度は4K画質の水準を保っています。5GHz帯域に接続した場合、速度は更に基準を上回っていたことがわかりました。

図7:2.4GHzにおける異なる渋滞の程度の受信速度

図8:5GHzにおける異なる渋滞の程度の受信速度

 検証テスト項目4:総合無線性能評価 (OTA TRP/TIS) 

最後に、セットトップボックスのアンテナ総合無線性能評価(OTA TRP/TIS)のテスト結果を以下にまとめ比較しました。結論から言うと、2×2のWi-Fi OTAの性能は1×1よりも優れており、2×2 TRPは1×1 TRPより3 dBほど高く、アンテナ数によっては確かにOTAの性能が上がることが分かります。この結果は、前項のテストの結論にも当てはまります。

図9:TRPとTISデータ比較

図10:TRPとTISの3D図

今回の評価は以上となります。セットトップボックスに関する検証テストはもちろんこれだけでなく、音声と画像の良し悪し、コントローラの精度と感度など、まだまだ他にもあります。セットトップボックスに関する検証テストにご興味をお持ちの方は、アリオンのお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。