Allion Labs

Wi-Fi 7 Multi-Link Operation (MLO)とは

Wi-Fi 7(IEEE 802.11be)は、ネットワーク速度の大幅向上、低遅延化、安定性強化を実現する技術「マルチリンクオペレーション(MLO)」を導入しています。MLOでは、デバイスが2.4GHz/5GHz/6GHzなど複数の周波数帯に同時接続し、通信状況に応じてトラフィックを動的に分散することで、単一帯域に依存しない、高速・安定なデータ伝送を可能にします。

例えば、家族がそれぞれ別の用途でネットワークを利用している場合を考えてみましょう。お父さんはリビングで8Kストリーミング映画を視聴、お母さんは書斎でビデオ会議中、子どもたちは自室のVRディスプレイでゲームを楽しんでいます。さらに、スマートスピーカーなど多数のIoTデバイスがバックグラウンドで稼働している状況です。MLOを活用すれば、テレビは6GHz帯を使って大容量データを高速処理し、ノートパソコンは5GHz帯で安定した映像配信を行い、VRデバイスは5GHz/6GHzを動的に切り替えて低遅延を維持します。これにより、帯域の混雑を回避しつつ、すべての機器に対して円滑な接続性を提供できます。

MLOには、以下の5つの接続モードがあります。

MLOの5つの接続モード
表1:MLOの5つの接続モード

MLOのeMLSR機能により、ある周波数帯で干渉が発生しても、別のリンクを経由してデータを送信できるため、通信の信頼性が大幅に向上します。たとえば、30名が同時にWi-Fiを利用するコーヒーショップを想定します。ある方はファイルをダウンロードし、別の方はライブストリーミングを視聴、さらに別の方はモバイルゲームをプレイしています。近隣のWi-Fi干渉で5GHz帯が不安定になった場合でも、MLOは影響を受けたデバイスを自動的に6GHz帯へ切り替え、ストリーミングやゲームを中断させずにスムーズな接続を維持します。

さらに、MLOはVR/ARやクラウドゲームなどのリアルタイムアプリケーションの遅延低減にも効果的です。たとえば、自宅でクラウドゲームとARアプリを同時に利用する場合、ゲームは6GHz帯で低遅延を確保し、ARは5GHz帯を使い分けることで、他デバイスがバックグラウンドで動作していてもシームレスな体験を実現します。

Wi-Fi 7 eMLSR実測

この記事では、eMLSR機能を搭載した製品に焦点を当てます。eMLSRは、APとステーションの両方が対応している場合にのみ有効となり、いずれかが非対応だと動作しません。本テストでは、すべての機器がeMLSRに対応し、ステーションにはIntel BE200を使用します。テスト環境はAllion Wireless Equipment(略AWE)を用い、干渉信号を加えてeMLSR動作をシミュレーションします。スループットとレイテンシの変化をモニタリングします。

Allion Wireless Equipment (AWE)
図1:Allion Wireless Equipment (AWE)

分析と測定結果

本分析では、干渉前・干渉中・干渉後の各APにおけるeMLSRの周波数ホッピング動作を解析し、以下3つの指標を評価しました。

1. 各帯域への切り替えが、通信状況に応じて適切に行われているかを確認します。

2. 平均遅延および最大遅延が許容範囲内に収まっているかを評価します。

3. スループットが、干渉条件下でも最適なデータ転送速度を維持できているかを測定します。

 

図2のブランドEのスループット検証結果から、以下のことが確認できます。

  • 干渉前

AP とステーションは 6GHz 帯で接続され、ダウンリンク・アップリンクとも最大 2200 Mbps のスループットを達成しました。

  • 干渉が加わった後

6GHz帯から5GHz帯への切り替えには約3秒を要し、干渉の影響でダウンリンク+アップリンク合計スループットは1000 Mbpsまで低下しました。

  • 干渉をオフにした後

69秒後に5GHz帯から6GHz帯に切り替えたところ、ダウンリンク+アップリンクのスループットは干渉前のレベルに回復しました。

ブランドEのスループット検証結果
図2:ブランドEのスループット検証結果

また図3のブランドEのレイテンシの検証結果から、以下のことが確認できます。

  • 干渉前

レイテンシは常に10ms以内で安定していました。

  • 干渉が加わった後

干渉追加後 64 秒で 6 GHz から 5 GHz に切り替わり、その後レイテンシが徐々に上昇しました。

  • 干渉をオフにした後

干渉をオフにした後もレイテンシは不安定で一時的に30.07msまで上昇しましたが、6GHzに戻した後に10ms以内に回復しました。

ブランドEのレイテンシ検証結果
図3:ブランドEのレイテンシ検証結果

アリオンAPデータベース・ベンチマーク比較

さらに、Allion Wi-Fi 7 APデータベースを用い、ブランドAとブランドBを含む3台のAPをベンチマークテストで比較しました。各色は以下を示します:緑=ブランド E、黄=ブランド B、青=ブランド A。

  • AP→ステーション 方向の最大レイテンシ(上段グラフ)

– ブランド E は、干渉の有無にかかわらず最大レイテンシがほとんど変化せず、安定性が高いことがわかります。

– ブランド B は、干渉オフ時にレイテンシが大きく増加するものの、干渉オン時には最も低い遅延を示しました。

– ブランド A は、干渉オフ前後ともにレイテンシが低く、全体として安定した性能を発揮しています。

  • ステーション→AP 方向の最大レイテンシ(下段グラフ)

– ブランド E は上段同様、三つの状態でレイテンシがほとんど変わらず安定しています。

– ブランド B は、干渉オン/オフ両時にレイテンシがやや高めに推移しました。

– ブランド A は、干渉の有無を問わず常に最も低い最大レイテンシを維持し、優れた双方向性能を示しています。

3機種のAPにおける最大レイテンシ比較
図4:3機種のAPにおける最大レイテンシ比較

図5は、3機種のAPにおけるスループット性能を示しています。

  • 干渉オフ時のピークスループットは、ブランドAが3802 Mbps、ブランドBが3620 Mbps、ブランドEが2092 Mbpsでした。
  • 干渉オン時のピークスループットは、ブランドAが3152 Mbps、ブランドEが1056 Mbps、ブランドBが940 Mbpsを記録しています。

これらの結果から、ブランドAのAPは干渉下でもeMLSR機能により高いスループットを維持できる一方、他の2機種はeMLSR機能搭載後でも干渉時に大幅に性能が低下することが明らかになりました。

3機種のAPにおけるスループット比較
図5:3機種のAPにおけるスループット比較

まとめ

上記の実験結果をまとめると、総合性能は「ブランドA > ブランドB > ブランドE」の順であることが判明しました。

Wi-Fi 7 MLOの新技術であるeMLSRは、外部干渉下でも高速スループットと低遅延を維持できる点が最大の強みです。eMLSRはユーザー体験を大幅に向上させるため、今後より多くのAPやステーションに採用が拡大すると期待されます。

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