テレビ/スクリーン・プロジェクター・ホームシアターオーディオは、ホームシアター環境を構成する三つの要素です。ディスプレイ技術の進化に従い、ディスプレイの解像度が向上してきましたが、今まで画面の精緻さを求めてきた消費者は、今度はオーディオの質に注目し、より高度な映像・音声体験を求め始めました。近年、様々なAV規格が登場し、新たなホームシアターの連携体系が誕生しています。その中でもDolbyとDTSの二つのサラウンドシステムが市場の主流になっています。

 例えばDolbyシステムの場合、スピーカー数は最初のDolby Pro Logic 5.1チャンネルから、最高規格のDolby Atmos 24.1.10チャンネルに進化してきました。Dolby Atmosについて説明すると、これはドルビーラボラトリーズが2012年4月に発表したサラウンド記録再生方式です。従来のチャンネル依存(Channel Dependency)を捨て、音声をオーディオ要素(Audio Element)にミキシングし、一つのサウンドオブジェクト(Sound Object)にまとめます。3D空間のどこにでも配置でき、音声のソース・移動方向と位置を正確に配置できるため、サラウンド効果を平面から立体に進化させ、よりリアルなビデオ・オーディオエクスペリエンスを実現させました。また、Atmosのオーディオ技術をユーザー側が享受できるようにするために、ドルビーラボラトリーズは新たな音声コーディング技術「Dolby ED2」を開発しました。Dolby ED2はDolby Eの拡張技術のため、下位互換性を持っています。新たなプロフェッショナルメタデータ(Professional Metadata, PMD)システムを利用することで、臨場感溢れるオーディオ体験を提供できます。

図1:ドルビーホームサラウンドオーディオのイメージ

天井スピーカーを家庭内に 新たなサラウンドオーディオ体験

 2014年、ドルビーラボラトリーズは映画館でしか体験できないDolby Atmos技術を、ホームシアターシステムに導入する「Dolby Atmos for Home」を発表しました。家庭向けAtmosは、今のところ最大24の平面チャンネルと10の天井スピーカー(24.1.10)に対応し、128の音声オブジェクトを同時処理できます。WWDC 2018でも最新のtvOSがDolby Atmosに対応することが公表され、ホームシアターシステムを映画館のオーディオ効果により近づかせることができます。もう一つのデジタルサウンド大手であるDTSも、2015年に新たなホームシアターサラウンドフォーマット「DTS:X」を正式に発表しました。Atmosと同じように、音声オブジェクトコーディング技術を使い、映画館だけでなく、ホームシアターシステムにも対応します。消費者は出かけなくても、上記の新しい音声技術を通じて、家で新たなサラウンドオーディオを体験し、ホームシアターの効果をよりいっそう向上させることができます。

 しかし、製品の規格を見るだけで、はたして消費者は期待通りのAV製品を選べるでしょうか。例えば、オーディオ専門店に行き、店員から詳しい説明を受け、製品の規格も細かくチェックしてシステムを購入したとしましょう。にもかかわらず、帰ってセッティングしてもスピーカーの音量が小さい、高音域に透明度がない、低音域が弱い、音量を上げると音割れする、など原因不明の様々な不具合に見舞われてしまった。似たような経験はありませんか。

 

ホームシアターの検証のことならアリオンへ

 アリオンはオーディオ検証の分野で長年の経験を重ねてきましたが、「音質」こそユーザー体験に影響する大きな要因の一つだと把握しています。とくにDolby AtmosとDTS:Xの場合、音質の「緻密な再現力」を前面に打ち出しているため、各チャンネルに異常が出たとしたら、映像鑑賞に大きな影響をもたらしかねません。Dolby AtmosとDTS:X検証の過程で、稀に音割れとノイズが発生することが分かりました。しかしチャンネル数が多く、各チャンネルが異なる音声表現を担当しているため、数多くのスピーカーがある中で音声異常を特定し、デコーディング後の再生位置が正しいかどうかを確認することも、大きな課題です。したがって、Dolby AtmosとDTS:Xの検証を行うため、アリオンは市場にある様々なDolby AtmosとDTS:X機能に対応するAV機器を揃えており、顧客の求めに応じた様々な製品規格と検証の需要を満たします。

※Dolby Atmos機能に対応するAVレコーダーについて、Dolbyの公式サイトを参照してください。https://www.dolby.com/us/en/categories/AVR.pdf

※DTS:X機能に対応するAVレコーダーについて、DTSの公式サイトを参照してください。https://dts.com/dtsx

 アリオン検証チームがIssue Databaseを使ってビッグデータを分析した結果、ホームシアターの互換性検証の中で、周辺機器の接続で起きた問題において、映像と音声の占める割合は半々ということが分かりました。

 今までホームシアター検証でよく見られた問題の中から、いくつかをピックアップして紹介しましょう。

図2:ホームシアター機器の接続イメージ

 

 1.音声出力のずれやチャンネル出力の異常 

 セットトップボックスで映像の特定の段落を再生するとき、背景音が正常に出力されるが、人の声が急に消える現象。あるいは再生中に異なるチャンネル(重低音・左右チャンネルなど)から出力された音声がずれたり、おかしくなったりする問題。特定の操作、例えば一時停止・早送り・早戻し・スリープを実行すると、爆音が出るか音声が出なくなる問題。これらの問題はアンプ/AVレコーダーがデコーディングやシステム状態を切り替えるとき、ソースの映像との間に互換性トラブルが起きたことを意味します。

 2.映像・字幕・プレビューが表示できない 

 製品の機能検証以外に、アリオンでは一般ユーザーの使用環境を再現したシナリオ検証を行います。例えばユーザーが、話の続きが気になってリモコンで早送りするためにシークバーを移動させる場合を想定します。プレビューが真っ暗で、正しくローディングされない、あるいは特定の機器を繋げた場合に映像や字幕の表示がおかしくなる、といった問題を見つけることができます。

 3.接続機器の一つをオフにしても機器連携が作動しない 

 テレビにアンプを接続し、映像を再生するとき、下記のような問題が起きることがあります。

  • テレビを一度切って再度オンにした場合、映像を止めた場所から始まるのではなく、最初から再生される
  • テレビをオンにしたままでアンプをオフにすると、テレビのスピーカーから出力された音声が急に大きくなる
  • テレビにサウンドバーを接続するとき、テレビのリモコンでサウンドバーの音量を調節することができるが、代わりにAVレコーダーを接続すると、テレビのリモコンで調節できなくなる。しかし、先にAVレコーダーを接続してからサウンドバーに切り替えた場合、テレビのリモコンはAVレコーダーの音量のみならず、サウンドバーも正常に調節することができるようになる

 上記のような予期できない動作について、アリオンが検証を行った結果、原因はAV機器のデコーディングあるいはHDMI CECの互換性(注1)にある可能性が判明しました。メーカーが異なるAV機器の通信プロトコルには多少の違いがあります。ユーザーエクスペリエンスを損なわないよう、製品を出荷する前に互換性検証を行う必要があるでしょう。

注1:HDMI CEC(Consumer Electronics Control)互換性機能とは、HDMI通信規格の一つであり、異なるメーカーや機器のリモコンをお互いに操作できるようにする機能のことです。例えばA社製のテレビにB社製のアンプを接続した場合、A社製のテレビのリモコンでB社製のアンプを操作することができるようになります。

まとめ

 ホームシアター製品は多機能化の流れに向かいつつあります。多種多様なAV機器を導入していく家庭が増える流れの中で、例えばDolbyとDTSを代表とするサラウンドオーディオシステムのような高品質なオーディオに対する需要が増えつつあるほか、周辺機器メーカーにとっては各種類のAV規格に対応していくことが大きな課題になるでしょう。これらの問題には様々な原因が考えられます。アンプの音声デコーディングに起因する場合もあれば、HDMI CECの互換性に問題がある場合もあります。こういった潜在的なリスクは、多種多様な検証環境の構築と検証の繰り返しによって問題が特定されることで、はじめて品質を向上させることができるようになります。

 ビデオ・オーディオ機器システムの新機能と運用の開発を行ってきたアリオンは、世界一を誇るAV機器データベースを保有しています。各地域のビデオ・オン・デマンドに対応するオーダーメイドの検証サービスを提供しているので、各地域の需要に応じた試験内容を構築可能です。地域や製品に応じた、潜在的なリスクの洗い出しを行います。

検証や技術相談などが必要な場合、お気軽にご連絡ください。