アリオンは2018年4月18日、都内でIoT製品検証に関するセミナーイベント『品質検証のエキスパートが伝授! IoT製品の潜在リスクと対策』を開催しました。セミナーにはIoT Newsを運営する株式会社アールジーン代表をつとめる小泉耕二氏、アリオン株式会社コンシューマー事業部 石山一直、同標準化・認証事業部の飯田雅也、そして台湾Allion Labs Inc.のThomas Chang (トーマス・チャン)の4名が登壇し、本格化するIoTのトレンドや起こり始めた問題点、課題をクリアするためにどのような支援サポートが求められるかを解説しました。

                    図1(左)と2(右):会場の様子

IoTの真価を引き出す「モノのインテリジェント化」

IoT NEWSの代表を務める小泉氏はセミナー冒頭で、CESやMWCなど世界各国で開催されたイベントから得た見解を基に、昨今のIoTトレンドと潜在リスクについて解説しました。小泉氏によると、2016年当時はZigBee、Z-Wave、Thread等通信規格に関するトピックが多く、事業者がアライアンスのメンバーに入ることで提供製品が「コネクテッド」(接続されている)であることが重要とされていましたが、製品が接続されるだけでは価値が生まれにくい状況があったといいます。

しかし、2017年にはAmazon Echoをはじめとするスマートスピーカ群がイノベーションをけん引する年となり「2017年では<テーマ化>によりスマートホーム業界に変化の兆しがみられた」(小泉氏)といいます。「テーマ化」とは接続したモノ同士が特定のテーマに対し連動し、自動でアクションを実施することを指します。例えば、スマートスピーカに「おはよう」と言うと、朝やるべきこと(カーテンを開けて、電気をつける等)が自動的に行われるというものです。さらに将来的にはAlexaやGoogle Assistant等エンジン自体の進化により、モノ自体が人の行った行動を機械学習し行動に移す「インテリジェント化」する流れが来ることを予測しました。

IoT NEWS代表 小泉耕二氏

 

繋がることで引き起こされる課題

IoTは全てが繋がって初めて価値が生まれますが、利便性の向上は同時に様々な課題も引き起こします。小泉氏は2016年末に起こったMiraiの事例を挙げました。Miraiは、IoT機器を主なターゲットとするマルウェアで、IoT機器を乗っ取りボットネット形成、ウェブサイトにDDoS攻撃に移行します。

このように、繋がることは利便性をもたらす一方、事業者側は接続性や干渉、セキュリティといった様々な問題と向き合わなければなりません。とりわけIoTの世界ではインターオペラビリティ(相互運用性)が重要で、製品の接続性は常に担保されている必要があります。それでは、製品が問題なく接続された状態を担保するにはどのような問題点を確認すべきでしょうか。 

 

興隆するIoTと無線の輻輳問題

「検証段階では発見できなかった問題が現場では起こる」。アリオン株式会社コンシューマー事業部 石山は、自身で行った検証を交えて無線の輻輳(ふくそう)問題を指摘しました。Wi-FiやBluetooth機器は巷で増加し利用環境が影響するケースが増えており、環境によりデータ転送速度が遅くなっているといいます。講演では、シチュエーション毎の問題点を明らかにするために、商業施設、一人暮らし用のアパート、都内タワーマンション、五反田駅におけるスペクトラムを比較検証した結果を紹介しました。

アリオン株式会社 コンシューマー事業部 石山一直

「横軸は1から13チャンネルを表し、赤色の山が込み合っているチャンネルを表している。商業施設ではキャリアのショップが複数あり、Free Wi-Fiの設定により混線している。また施設内のショップが1チャネルに集中してアクセスポイント(AP)を立て、SSIDも100以上の数が測定された」(石山)

続いて例に挙げた五反田駅では120前後のSSIDを検出できたといいます。「モバイルルーターの電源を入れたまま通行する人もおり、全体の15%~25%程の割合を占めている。また、テザリング機能をオンにしたままの歩行者も多い。隣接する駅ビルの影響もある。このレベルの混線だと接続がうまくいかず、通信の低速化が引き起こされる」(石山)

一方、一人暮らしアパートやタワーマンションでの無線状態は穏やかです。「商業施設や駅では想定以上の輻輳状態があるだけでなく、傾向にも違いが見て取れた。このようにテストでも本番に近いシチュエーションを想定した疑似検証をする必要性があり、現場で発生する問題が、試験では見れないという状態は避けないといけない」と検証の重要性を強調しました。

 

無線信号干渉を可視化するソリューションを提供

「IoTデバイスの導入には、輻輳環境を想定する必要がある。問題の発見が早ければ早いほど、開発コストを抑えることができる」 登壇したAllion Labs Inc.のThomas Chang(トーマス・チャン)は、IoT製品やサービスに内包する問題とその早期発見の重要性を解説しました。無線信号に影響する要因は①距離、②建物内で使用される材質、③建造物、④同じ無線帯域内での干渉、⑤デバイス接続数、⑥無線技術の重複の6点に集約され、それらの要素を自前で構築するのは容易ではありません。

Allion Labs Inc. Thomas Chang (トーマス・チャン)

 「アリオンでは、こうした複雑に絡み合う状況を『IoTイノベーション検証センター』でエミュレーションすることができる」(トーマス)

スマートスピーカの登場で製品の増加が見込まれるスマートホーム環境や、センサーとネットワーク技術の進化に伴って盛り上がりを見せるスマートビルディング環境など、様々な使用状況を想定した検証が可能となっていることを強調しました。さらに「アリオンが提供するヒートマップ検証では受信信号強度(RSSI)を可視化することで、スマートデバイスのWi-Fi, Bluetooth, ZigBeeなど無線LAN接続に関する性能と品質確認ができる」と続けます。

「アリオンでは本番環境を構築するために必要な要素をすべて用意できる。シールドルーム、デバイス操作に精通したエンジニア、さらにBluetoothとWi-Fiといった主要無線通信の認証機関として、無線のスペシャリストがいることはアドバンテージといえるだろう」(トーマス)

 

無線通信規格のエキスパートを擁するアリオン

最後にIoTデバイスの規格に関する認証手順・試験の概要、アリオンが提供するロゴ規格認証サービスについて標準化・認証事業部の飯田が紹介しました。

「アリオンでは30種類以上のロゴ認証サービスを提供しており、主要な無線規格としてBluetooth、 Wi-Fi、 OCF(Open Connectivity Innovation)の認証サービスも手掛けている。」(飯田)

アリオン株式会社 標準化・認証事業部 飯田雅也

アリオンではこれらの無線通信規格を監督する各アライアンスと協力的な関係を築いており、各規格のエキスパートが社内に在籍しています。例えば、Bluetooth技術においては監督団体であるBluetooth SIGから認定を受けたエキスパートBQC(Bluetooth Qualification Consultant)による登録のサポート・設計のアドバイスを行える。また、Wi-Fiにおいても「Member Recognition Award」、「Authorized Test Laboratory Recognition Award」2つの賞をWi-Fi Allianceへの技術的な貢献を通して受賞しており、認証団体の中でもWi-Fi全認証プログラムを提供できる数少ない団体です。トレンドとなっているLPWAの主要規格の一つLoRa WAN認証についても「今後サービスが提供される予定」(飯田)と話しました。

 

おわりに

今回のセミナーは、IoT製品の検証課題や市場のトレンドといったテーマとあって、会場はほぼ満席の状況でした。質疑応答では様々な業種の企業からの質問が飛び交い、各社がIoTの開発や具体的な運用について頭を悩ませている様子が見て取れました。IoTは特定の業種だけに関わる技術革新ではなく、業種横断的に影響を及ぼすものです。家電や自動車、産業機器、医療機器など、様々な製品が繋がることでユーザーが享受できるメリットは数知れませんが、企業側としては製品同士が連携されることで起きる問題にも目を向け、対処する必要があります。今後の製品開発においては、IoTイノベーション検証センターを始めとしたIoT製品に特化した検証サービスを活用することで、接続性などの問題に対し効率的な対処を行うことが重要になるでしょう。