走行試験にGO!スマートフォンのGPS機能比較

 最近のスマートフォンにはカーナビ機能が標準装備されています。カーナビ機能を起動させると、自分が今どこにいるのか知ることができ、自動車の運転時などは特に、多くのユーザーがカーナビ機能に頼って道に迷わないようにしています。ただ、ポジショニングの正確性には未だに多くの課題があります。一般ユーザーがカーナビ機能を使用する際によく見られるのが、ポジショニングの遅れ、ロケーションの消失、ルートからのずれといった問題です。これは、GPS性能が低いことや、周囲にある建物が高層かつ密集している場合に比較的よく見られます。

 アリオンのチームは、特にスマートフォンのGPS能力確認に対する有効な方法として、複数のスマートフォンを使った様々な道路環境による実際の走行試験を設計し、GPS能力の比較試験を実施しました。様々な走行試験環境の下でポジショニングの失敗ルート(Failure Route)を探し出すほか、その問題の発生率(Failure Rate) を分析し、同時に各スマートフォンによるポジショニングのずれの状況と、周囲の環境がずれにどの程度影響するか比較します。

走行試験によるスマートフォンのGPS性能比較

 現在、Android OSを搭載したスマートフォンは市場に数多く発売されています。メーカーによって販売年度、ハードウェアの規格で分類され、さらにGPS機能とナビゲーションアプリも多岐の選択肢があるため、比較分析が困難です。このため本稿ではAndroidのスマートフォンに対して、いくつか実際のルート試験を実施し、各スマートフォンのGPS機能のパフォーマンスを比較しました。

※本表のスマートフォンの機種と並び順所は、結果による順列ではありません

 

 現在、カーナビとスマートフォンのいずれも、地球を周回するGPS衛星信号によってポジショニングを行っています。信号を受信することができる屋外の場所で、かつ信号量が十分である場合は、位置を正確に決めることができますが、信号が遮蔽物に阻まれた際には、位置決めが困難となります。スマートフォン内部のGPSチップ(アンテナ)の主な役割はGPS衛星から信号を受信して、データを利用してスマートフォンの三次元位置と時間を計算することです。
実際の状況での比較試験に入る前に、まず簡単に本稿で実施したの走行試験の条件についてご説明します。

  • GPSポジショングシステム:3台とも全て同じ通信キャリアで実施
  • GPSポジショニングソフトとトラックレコード・ソフト:走行試験時の経路ソフトウェアとしてGoogle Mapを使用し、バックグラウンドでGPS Logをキャプチャー
    (注:本文でご紹介しているアプリは走行試験時にインストールされているAndroidバージョンに準拠しています。)
  • Androidシステム:Android 5.0 & Android 6.0.1

 GPSポジショニング結果に影響を与える原因には様々な種類があることから、技術的なスペックに対し事前に基本的な理解と比較を行ったうえで携帯電話をピックアップする必要があります。今回の走行試験では、精度の高いGPS Golden Sampleを使用し、走行試験の比較対象としました。

走行試験のデザインの環境

 走行試験の実施場所は市街地(Downtown)高速道路(Highway)を採用しました。市街地は、一般道路上方に高架橋があり遮られている道路高層ビルの路地高層ビルの隣で静止多重構造の分岐路という5つのルートに分け、それぞれ走行試験を行いました。

走行試験での発見

一般のドライバーが運転中に携帯電話のGPS機能を使用するのは、その多くが都市部であり高層ビルが立ち並ぶ環境です。このような場所では建築物等にレシーバーが遮断されるため、衛星からの信号が受信しづらくなることで発生するGPSのドリフト現象等によりナビゲーションの正確性が低下します。

以下は走行試験を実施した中から選んだ重要セクションの分析結果です。

1. 一般道路 (Normal Road)

 

 Normal Road1(図1.1)のセクションでは、Phone1およびPhone3でポジショニングが下方にずれ、直線道路であるにもかかわらず曲線形のルートを示しました。それに比べ、Phone2のずれは比較的軽微でした。同様に、Normal Road2(図1.2)のセクションでは、車両が交差点を通過後、Phone2およびPhone3のポジショニングが上方にずれました。各セクションを通過する際にGPS信号は周囲にある家屋と建築物の影響を受け、受信できる信号が相対的に減衰し、信号強度もそれに伴い影響を受けた可能性があると判断しました。

 注意すべきなのはNormal Road3(図1.3)のセクションで、実測5回のうち1回でPhone1およびPhone3のポジショニングが、ランドマーク的な建築物の前で突然下方へと大きくずれる現象が見られたことです。特にPhone3に至っては、42メートル近いずれが生じ、Phone2では軽いずれとなることを確認しました。発生率は20%ほどでした。この環境には、一部信号のはっきりしない盲点のようなエリアがあり、ナビゲーションデータを失わせて道路をミスジャッジさせる重大な問題が発生しました。ユーザーの回り道や、道に迷わせるといった負担を引き起こしている可能性が伺えます。

 このほか、Normal Road4(図1.4)のセクションでは、Phone1およびPhone3のポジショニングに大きなずれが生じ、Phone1では不規則なラインの形成が、Phone2では軽微なずれが見られました。Normal Road5(図1.5)のセクションでもNormal Road4と同様の現象が見られました。こちらについては、高架橋に近づく際に、GPS信号が橋に遮られることが原因であると判断しました。

2.上方に高架橋があり遮られた道路(Overhead Road)

Overhead Road1(図2.1)のセクションでは、4台の携帯電話全てにポジションのずれが生じました。Uターン後もすぐには正確な位置にポジショニングが戻らず、高層ビルの影響度の高さを示しています。

Overhead Road2(図2.2)ではPhone1~3にそれぞれ影響が見られました。特に、Phone3に至ってはGolde Sampleと比較して約36メートルのずれが生じています。このような大幅なずれが発生した場合、初期的な判断としては、信号が高速道路や建築物に遮蔽され、受信できない環境となったことが原因であると考えられます。

3. 高層ビルの路地 (Narrow Lane)

このほか高層ビルの路地でも、GPSの信号制度が悪化する問題が出現しました。高層ビルの路地に移動した際、例えばNarrow Lane 1(図3.1)のセクションでは、Phone3のポジショニングのずれが最も大きく、その他2台の携帯電話のずれはGolden SampleとPhone3の間ぐらいの結果となりました。同様にNarrow Lane2(図3.2)セクションでは、Phone1、2と3のポジショニングの全てでずれが生じ、Phone3のずれ幅が最大となりました。発生した誤差の値が大きすぎる状況は、現地の環境制限(高層ビルの小道)による影響である可能性があります。

Narrow Lane 3(図3.3)のセクションについて言えば、この場所は交差点の曲がり角です。Phone1、2、3のポジショニングにはすべてでずれが生じ、そのうちPhone3が最も大きくずれました。5回の実測で1回、曲がり角でPhone1、3のポジショニングに大幅なずれが出現しました。曲がり角では道路間の距離が非常に密集している影響により、ポジショニングが容易ではないことから、ポジショニングが不正確となる可能性があると判断しました。

4. 高層ビルの隣での静止(Static Tracking with Tall Building)

Static Tracking with Tall Building(図4.1)について、黒色の枠は車両の停車位置を表しています。Phone1、2のポジショニングはほとんど定点上ではありますが、実際に携帯電話を設置した位置とは少々の誤差があり、Phone3ではポジショニングのバウンス現象が発生しています。

5. 多重構造の分岐路 (Multi Directional Intersection)

Multi Directional Intersection 1(図5.1)のセクションでは、自動車専用道路のインターチェンジから乗り入れています。このセクションを通過している際に、Phone1、2のポジショニングはどちらも正確でしたが、Phone3のポジショニングは自動車専用道路のインターチェンジ部分にありました。一方、自動車専用道から降りる際には、Phone2,3のポジショニングにはずれが生じました(図5.2)。空が開放的な自動車専用道路を移動する関係から、高架橋を降りる際に付近の建築物が信号を遮り、受信に影響してポジショニングのずれを引き起こしていると推測されます。

各セクションのデータを整理すると以下の通りとなります。3台の携帯電話はセクションごとでそれぞれ優劣があり、実際の使用状況に照らし合わせてみると、Normal Roadセクションは上方に建築物で遮られていないため、ずれの量は低ければ低いほど良く、Overhead Roadの部分では高架橋などの建築物が衛星からの信号を遮るため、このセクションではずれの誤差が一般道路に比べ大きく、Narrow Laneのセクションの部分は、衛星信号が建物と道幅により遮られたため、比較的大きな実際のずれが生じ、Static Trackingの部分は元の場所にとどまるため、衛星のポジショニングのずれが比較的低いレベルで維持されことを期待され、多重構造の分岐点のセクションでは衛星の正確な位置の判断と、GPSの真の性能が試されました。結果をまとめると、Phone2は今回の走行試験での表現がとても良好な製品となりました。

今回の走行試験を通して、携帯電話のGPS機能におけるポジショニングのずれ状況と環境が与える影響について比較試験を実施しました。

ナビゲーション精度の重要性は日を追う毎に増しています。大多数のスマホユーザーは、どんな環境下でもGPSが正確に位置を指し示すことを期待しており、スマートフォンはそれに応えることが求められています。アリオンでは走行試験など、ご要望に応じて個別に作成する試験を通じて、より製品開発をしやすい環境づくりをお手伝いしています。より一般ユーザーの使用行為に近い試験を行ってデータを取得することで、開発へとフィードバックし、市場でのチャンスを掴むきっかけとなります。製品本体のパフォーマンスとその他競合製品との比較を提供するほか、各段階で必要となる検証や認証といった試験サービスも提供しています。モバイル製品に対するプロフェッショナルな試験を通じて、潜在的な問題を発見し、製品の安定性向上に寄与します。

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