音声入力側の音質試験は人々の関心が出力側ほど高くない上に手順も煩雑であることから、試験報告書はあまり多く見られません。本稿は、イヤホンマイクのジャックの入力音質評価、内蔵マイクロホンの一部機能を含んだ、入力音質の測定による評価比較レポートです。音声周波数測定の経験を積み重ねてきたアリオンの試験チームが作成しています。

 

試験対象(DUT):

DUTS

 

測定項目

Test Items

 

Audio Input Testing

測定機器

  • Audio Precision APX 585+AP500 v4.1
  • 3RCA to 3.5 mmケーブルコネクタ(イヤホンマイクのジャックの入力機能を起動させるため、1K-1.5Kオームの負荷をかけた)
  • 音声記録アプリWinMob 1.81803.0 Apps

設定と手順

信号発生器に作成させたアナログ音声信号を、仮負荷をかけた3RCA to 3.5mmケーブル経由で、イヤホンマイクのジャックから入力すると同時にデジタル録音しました。録音したファイルは、可逆圧縮によるパルス符合変調フォーマット(PCM、44KHz、16bit、モノラル)とし、最後にUSBケーブルを通して録音ファイルをAudio Precision APX 585に送信して分析を実施しました。

実際のところ、イヤホンマイクのジャックの入力機能を起動させる方法は、スマホ端末によって異なり、等価回路負荷やイヤホンマイクのコマンドによる干渉も、この機能に影響を与えます。その製品の開発メンバーでない限り、試行錯誤を繰り返してパラメータを探り当てるしか手はありません。アリオン試験チームは各端末の入力機能を手探りで、ひとつひとつ有効化していきました。

AD Test Setup

Figure 1 : A/D Test Setup

 1. A/D – Full Scale Input Voltage and THD+n Ratio 

目的:デジタル録音レベルが、歪みなく最大化したとき(0dBFS)のアナログ入力信号電圧を測定(このデータは、後続の試験の参考基準としました)。

推奨基準:録音レベルが0dBFSに近いほど優れている。

測定を実施してみると、歪みが許容可能なレンジ内であるという条件下において、4台の試験対象(DUT)それぞれについて、録音レベルを最大化するのに必要な入力電圧を知ることができます。

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この測定においては、iPhone 6及び Android Phone 3で録音したファイルだけが0dBFSに近く、Android Phone 3はわずか13mVで録音レベルが最大値に達しており、感度はiphone6よりも優れています。Android Phone 1 及びAndroid Phone 2は、電圧値にかかわらず、録音レベルは-1dBで停滞したまま上昇せず、歪みのレベルもiPhone 6 やAndroid Phone 3に劣る結果となっています。

パフォーマンス順位:Android Phone 3 > iPhone 6 > Android Phone 2 > Android Phone 1

 2. A/D – THD+n Amp. vs Frequency 

目的:全帯域における入力歪みのレベルを検査。

推奨基準:100Hz- 20KHzにおいて、歪み≦-65dB

測定の結果、iPhone6は低周波で小さな雑音が発生したのを除くと、他の帯域ではいずれも歪み率-80dBを下回る優れたパフォーマンスを見せました。Android Phone 1 とAndroid Phone 2の歪み率は似通っていましたが、Android Phone 1のほうが低帯域でのパフォーマンスが優れていました。この両者は中帯域での品質に力を入れているのがわかります。Android Phone 3は、-70から-75dBのレンジ内という結果でした。

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パフォーマンス順位:iPhone 6 > Android Phone 3 > Android Phone 1 > Android Phone 2

 3. A/D – Dynamic Range 

目的:周波数1KHzで、最大録音レベルとノイズと差を測定。

推奨基準: >= 70 dB、差が大きいほど優れている。

iPhone6 及びAndroid Phone 3は80dB以上を示しました。Android Phone 1とAndroid Phone 2に大差はありません。

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パフォーマンス順位:Android Phone 3 > iPhone 6 > Android Phone 1 > Android Phone 2

 4. Frequency Response 

目的:全帯域において、オリジナル信号に対する録音の減衰曲線を描く。

推奨基準:低帯域(200Hz)では減衰3dB以内。高帯域(8KHz)では1dB以内。

応答のレンジは広いほどよいのですが、各社によって訴求が異なることから、最初から言語(人の声)の録音機能提供を目標にして開発されたため、応答レンジが中帯域の狭い範囲に限られている可能性もあります。

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iPhone 6は、低帯域では160Hzから減衰が3dBを超え、高帯域では減衰が1dBを超えたのは、18KHzになってからでした。Android Phone 1のパフォーマンスは全帯域において他の機種を上回りましたが、5KHzで不正常な波打ちが発生しました(下図参照)。

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Android Phone 2及びAndroid Phone 3は応答のレンジが狭く、言語の録音に適しているようです。

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パフォーマンス順位:iPhone 6 > Android Phone 1 > Android Phone 2 > Android Phone 3

 5. MIC- Full Scale Input Level and SNR 

測定機器

-Audition 1.5 Audio Edition Software

-Larson Davis CAL200 Standard Audio Source

-音声記録アプリWinMob 1.81803.0 Apps

設定と手順

スマートフォン端末内蔵マイクを用いて94dBsplの基準で録音し、Adobe Auditionを用いて録音レベルを分析します。

Input Test Setup

基準となる音源を録音してから、その録音レベルを検査することにより、端末内蔵マイクロホンの感度を比較することができます。その後、背景ノイズを録音して基準音源と比較して、S/N比のデータを推算しました。

測定の結果、Android Phone 2は録音レベルが高いようでしたが、ノイズもiPhone6に較べて高い結果となりました。電位が-20dBVであるiPhone6の設定のほうが理想的であるといえます。Android Phone 3とAndroid Phone 1は録音レベルが低く、音が小さすぎる可能性があります。端末ごとの無声録音データを見ると、Android Phone 2とiPhone6の内蔵マイクのS/N比が優れていました。

MIC Test

Microphoneパフォーマンス順位:iPhone 6 > Android Phone 2 > Android Phone 3 > Android Phone 1

 

まとめ

スマートフォン音声入力評価の総合ランク表は以下のとおりです。iPhone6はいずれの測定項目でも優れたパフォーマンスを示しました(数字が小さいほど優秀)。Android Phone 2とAndroid Phone 3はまずまずといったところで、両者に大差ありません。Android Phone 1は周波数応答で良好なパフォーマンスを示しましたが、その他の項目では改善の余地があります。前回の出力音質測定の記事でも述べましたが、音質の良し悪しの判断は非常に主観的になりがちであることから、アリオンでは今回のように、測定機器を用いたデータ中心の音質評価分析をお届けしました。

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音声信号の出力方法は多種多様です。アリオンは音質関連の測定経験が豊富で、入力音質及び出力音質の分析という点では、上述のスマートフォン端末のみならず、PC、テレビ、セットトップボックス、スマート家電からパーツに至るまで、ほとんどの製品ついて測定を実施することができます。膨大な製品データベースと技術的なリソースを有するアリオンでは、お客様の競争力アップに貢献できる比較分析報告を提供することが可能です。

 

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