消費者のスマートフォンに対する要求レベルがかなり上がってきています。以前に取り上げたディスプレイやカメラの品質はもとより、スマートフォンで音楽を聞く人が増えていることから、音楽愛好家にとっては音質の良し悪しこそが肝心です。しかし、単純に人の耳で音質の良し悪しを判断するのは主観的であるため、アリオンでは測定機器を用い、減衰、歪み、クロストーク、ノイズといったスマートフォンの音質を解析し、メーカーごとの違いを比較分析してみました。

 

試験対象

Spec

音質(音声周波数)試験は、出力と入力に分けて行いました。

  • 出力の部分は、デジタル信号をアナログ信号に変換する(Digital to Analog、D/A)品質を指し、イヤホンジャック(プリ部)、アンプ(パワー部)、スピーカーは出力試験に属する。
  • 入力の部分は、アナログ信号をデジタル信号に変換する(Analog to Digital、A/D)品質を指し、スマホ内蔵マイク、イヤホンマイクのジャックは入力試験に属する。

この両分野に対し、以下のように測定項目を定めました。

Test Items

各測定項目の詳細説明は、こちら オーディオ製品用コンデンサ 音質評価分析(上) 標準試験下における差異

 

音質輸出測試 

測定機器:

  • Audio Precision APX585 + AP500 v4.2
  • 10K Ohm Loading(パワーアンプの仮負荷をシミュレート)

試験の設定と手順

スマートフォンが再生する音声ファイルを、10K Ohm 負荷インピーダンスの3.5㎜ケーブルを通してAudio Precision APX585に送り、データ測定後、比較してみました。

DA Test Setup

図1:D/A音声出力試験の設定と手順

1. D/A – Full Scale Output Voltage and THD + n Ratio

目的:この試験は最大音量を基準として実施。一部のスマートフォンは最大音量のとき不安定となり、歪みが1%を超えると(信号クリップ現象)、音割れ、左右チャンネルのアンバランスなど、音質に悪影響をもたらします。最大音量に設定して0dBFSのファイルを再生し、出力電圧300mV以上で歪みが発生しないときの最大電圧値を測定し、後続の試験でもこのデータを参考基準とすることにしました。

推奨基準:歪み率1%未満、且つ電圧300mV以上

試験信号:0dBFS / 1KHz、44KHz 16bit PCM Wav

Output 1

測定の結果、iPhone6と Android Phone 2 は、出力1KHzのとき、電圧が大きく(1V以上)、しかも歪み率も低い結果となっています。Android Phone 1とAndroid Phone 3の歪み率に大差はありませんが、出力はAndroid Phone 3のほうがやや大きい結果となっています。

パフォーマンス順位:iPhone 6> Android Phone 2> Android Phone 3> Android Phone 1

2. D/A – THD+n Amp. vs Frequency

目的:全帯域内で、周波数ごとの出力歪みを測定。

推奨基準:全帯域20Hz-20KHzにおいて≦-65dB

試験信号:サンプリングレート44KHz及び48KHzの音声ファイルを使用。44KHzは音声信号では標準的なサンプリングレート。48KHzを用いた理由は、アリオン試験チームがAndroid搭載機器で48KHzの音声を再生したときResampling errorが発生し、歪みと減衰が起きたことがあったためです。

サンプリングレート44KHzの音声ファイル再生では、iPhone6とAndroid Phone 2は、中高帯域での歪みが-85dBから-90dBと低いのですが、低帯域になるとAndroid Phone 2はiPhone6よりも歪みが増幅しました。Android Phone 1は、中間の帯域においては、iPhone6やAndroid Phone 2と較べて5dBの差しかありません。Android Phone 3の歪み率は全帯域で-80dBを超えており、四種類の中では最も劣ります。

Output 2

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サンプリングレート48KHzの音声ファイルを再生したとき、歪みは44KHzのときと大差なく、どの被試験デバイスにもResample errorは起きませんでした。

Output 3

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パフォーマンス順位:iPhone6> Android Phone 2> Android Phone 1> Android Phone 3

3. D/A – Dynamic Range

目的:周波数1KHzで基準信号とノイズとの差を測定。この測定を通して、被試験デバイスが接続環境においてどれだけのノイズが発生しているかを測定します。

推奨基準:85dB以上(44KHz 16 Bitの理想値は96dB)

試験信号:-60dBFS(微弱信号) 1KHz44KHz 16 bit PCM WAV

非試験デバイスのうち、Android Phone 1を除く他の端末はいずれも90dB以上でした。iPhone6とAndroid Phone 2は、音声信号16bit前後でダイナミックレンジが最大になりました(96dB)。下図を参照してください(CH1:左チャンネル、CH2:右チャンネル)。

列印

パフォーマンス順位:iPhone6> Android Phone 2> Android Phone 3> Android Phone 1

4. Frequency Response

目的:全帯域内で、出力時におけるオリジナル信号の減衰曲線を描く。

推奨基準:低/高周波の減衰が±1dB以内、且つ中間帯域で±0.25dB以内

試験信号:-20dBFSの全帯域信号(20Hz-20KHz Sweep)、及びサンプリングレート44KHzと48KHz 16 bit PCM WAVの音声ファイルを入力。

 

人が耳に聞こえる音声の周波数は、通常20Hz-20,000Hzです。このレンジを超えるとほとんどの人は聞き取れませんが、感じることはできます。市販の製品に表示されている周波数応答は、あくまでイヤホンから放出されるときの音です。そのイヤホンの音質を表しているわけではありません。そこでアリオンは、測定機器を用いて、高周波、低周波の音質を測定しました。

サンプリングレート44KHzの音声ファイル再生のとき、Android Phone 1は全帯域が一直線を示し、減衰が全くない最高のパフォーマンスを示しました。他の端末は、中間部分ではフラットな直線でしたが、iPhone6は20KHzに至ると微妙な減衰がありました。Android Phone 2の再生能力は19KHzまで、Android Phone 3は17.6KHzになるとサポートできなくなり、最も劣ります。

4

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サンプリングレート48KHzの音声ファイル再生のとき、被試験デバイス間で大差なく、全帯域で高品質の再生が可能であり、Resample Errorもありませんでした。

Output4-2

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パフォーマンス順位:Android Phone 1>iPhone6> Android Phone 2> Android Phone 3

5. D/A – Crosstalk vs Frequency

目的:音を出しているチャンネルに対する全帯域内において、音のないチャンネルの電位の比を検査。これは、チャンネル同士でクロストークがないかを調べるためです。アナログ信号出力の際、クロストークは不可避の現象で、ユーザーにとって厄介なのは、いわゆる立体サウンドではチャンネルによって伝わる信号と位相が異なるので、信号に一定レベル以上のクロストークが発生すれば、立体感と音場の定位感が不明瞭化することです。

推奨基準:≧50dB、差が大きいほどよい(このデータは絶対値を取る)。

測定は、標準的な10KHz、及びパフォーマンスが最も劣っていた周波数という二つの検査ポイントで実施しました。測定結果を示す以下のデータとグラフより、Android Phone 2が最も優れており、いずれのポイントにおいても80dB前後でした。Android Phone 1は全帯域でほぼ75dB、iPhone6は70dB前後でしたが、Android Phone 3は60dBを下回り、最も劣ります。

Crosstalk

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パフォーマンス順位: Android Phone 2>Android Phone 1> iPhone6> > Android Phone 3

6. SPK- Full Scale SPL vs Frequency

目的:被試験デバイスのスピーカーが異なる周波数を再生する能力を測定する。
試験信号:100Hz-15KHz, 0dBFS, 44KHz 16 bit Wave

SPK測定機器:デシベルメーターTES-1357 Sound Level Meter

測定環境:この試験はノイズ38dBspl(Slow、A-weight)の静かな部屋で実施します。Slowとは、機器の測定のインターバルが一秒であることを指し、測定値はA特性周波数による重み付けが削られます。それぞれ異なる23種類の周波数のうち、最大値のデジタル信号ファイルを再生させ、デシベルメーターを用いて周波数ごとの個別の音圧を測定することで、スピーカーがさまざまな周波数を再生するときの能力を知ることができます。

測定中、被試験デバイスのスピーカーとデシベルメーターの距離は10cmに設定し、近距離から直接音を得て、反射音による干渉を抑制します。一部の被試験デバイスにはスピーカーが二個あるので、公平なデータ取得のために、全てスピーカー一個の測定データとしました。

SPL Test Setup

図2:Sound Pressure Level 測定の設定と手順。Fast Settingとは、デシベルメーターで被試験デバイスを測定するとき、インターバル100 millisecondに設定し、時間ごとの変動を測定する。

 

測定結果によると、Android Phone 2曲線は高周波での減衰が少なく、低周波ではiPhone 6に近く、全般的に音圧パフォーマンスに優れていました。

iPhone 6とAndroid Phone 3はほぼ同レベル。Android Phone 1はAndroid Phone 2と同じくスピーカー二個搭載ですが、パフォーマンスはAndroid Phone 2より劣り、スピーカー一個の音圧は他の機種に較べて顕著に劣っており、特に高周波での減衰が激しい結果となりました。

列印

パフォーマンス順位:Android Phone 2> iPhone 6> Android Phone 3> Android Phone 1

 

まとめ

スマートフォン音声出力の比較を行うと、メーカーごとに力を入れている部分が違うのがわかります。下の総合ランク表は、数字が小さいほど優秀です。全体を通しては、iPhone 6の出力パフォーマンスが最も優れており、Android Phone 2がこれに次ぎます。Android Phone 1は音の歪みと背景ノイズの成績が見劣りしました。Android Phone 3は全項目にわたって芳しくなく、まだまだ改善の余地があります。次回は入力音質の測定評価について報告いたします。

MobileAudio-16

 

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