ワイヤレス充電の性能が急速に進歩しています。最近のニュースなどによれば、アップル社が2018年頃にはガラス製フレームに変更を予定していると言われています。これはワイヤレスで接続するための設計とも言われており、ワイヤレス充電の普及を促すことが予測されます。

アリオンは、ドイツ・ベルリンで9月に開催されたIFA2016へと足を運びました。会場の様子から、将来的な市場トレンド予測として、今後、数え切れないウェアラブルデバイスが発表され、自社技術と充電器を推進する企業/団体同士の競争は激化することが予測されます。今後増加するワイヤレス接続可能な製品との接続互換性と安全へのリスクを減少させるためには、ワイヤレス充電デバイスの標準化を促進する必要があります。さらに、将来多くのデバイスは防水・防塵対応のために、ワイヤレス充電の技術は搭載が必至となっていくことが考えられます。

2013年にはアリオンの専門家チームが第三者試験機関としての立場で、有線とワイヤレス充電の性能に関する試験を実施し、その結果を分析しています(URL英文記事参照:http://www.allion.com/index.php?view=tech_detail&n=290)。

その際、第一世代のワイヤレス充電器には以下の問題が挙げられました。

  • 充電時間が長い
  • 充電効率が低い
  • 安全性と接続互換性が低い

3年が経過した今回、アリオンでは改めて最近のQi規格製品である「IKEA NORDMÄRKEワイヤレス充電パッド (Qi V1.1)」と「Samsung EP-NG930急速モード充電スタンド(Qi V1.2)」を使い、急速ワイヤレス充電の機能を持ったSamsung S7を用いて検証を行いました。

              
IKEA NORDMÄRKEワイヤレス充電パッド(Qi V1.1) Samsung EP-NG930充電スタンド

(Qi V1.2)

今回試験した項目はワイヤレス充電性能、充電効率、Qi対応製品の接続互換性、そしてユーザエクスペリエンスの4項目です。以下、順に紹介します。

 

ワイヤレス充電性能

三年前、アリオンでは第一世代のワイヤレス充電器「MaxWell WP-PD10」を検証しましたが、充電電流は平均で約600mAで2000mAの充電池を充電させると、フル充電までに3時間かかることが分かりました。今回はSamsung S7をIKEAのワイヤレス充電パッドで充電すると、充電電流は三年前の結果より1.6倍になり、効率も5%改善され、第二世代のワイヤレス充電の性能は大幅に向上したことが分かります(表1)。

(表1)

充電器

平均充電電流mA

対比※1

効率※2

第一世代

Maxell WP-PD10 Qi V1.0

587

100%

58%

第二世代

IKEA NORDMÄRKE Qi V1.1

959

163%

63%

※1 Maxell WP-PD10 Qi V1.0の充電電流との比較率
※2 効率(Efficiency)=出力電力(battery power)/入力電力(DC in Power)。

 

また、急速モードのワイヤレス充電器と通常モードのワイヤレス充電器も検証しました。Samsung S7の電池容量が50%の状態から満充電になるまでの時間と電流値をそれぞれ測定しています。その結果、通常モードのワイヤレス充電スタンドと比べ、急速モードのワイヤレス充電スタンドでは充電時間は18%減少し、充電電流が52%増加したことがわかりました(表2/図2:1時間10分26秒→50分57秒)。急速モードによる充電は充電時間の短縮になりますが、電圧が5Vから9Vになるため安全性の懸念点があります。

(表2)

モード

充電器

平均充電電流mA

対比※3

効率

急速モード

Samsungワイヤレス充電スタンドQi V1.2

1454

152%

63%

通常モード

IKEA NORDMÄRKEワイヤレス充電パッドQi V1.1

959

100%

63%

※3  IKEA NORDMÄRKE Qi V1.1の充電電流との比較率

 

更に、Samsungの急速モードのワイヤレス充電器とケーブル型の比較も行いました。一般的なケーブル型の充電器と比較すると効率の差は18%まで縮まり、ワイヤレスの性能はケーブル型に迫ってきました(表3)。

(表3)

種類

充電器

平均充電電流mA

対比※4

効率

ワイヤレス充電

Samsung急速モード Qi V1.2

1454

100%

63%

ケーブル型

Samsung急速モード QC 2.0

2491

171%

81%

※4  Samsung Qi V1.2の充電電流との比較率

 

 図1:充電電流の比較 

 

 図2:充電時間の比較(50%時点から開始)

 

ワイヤレス充電効率 

ワイヤレス充電効率の標準と規格などについては業界で統一されていません。複数の技術規格が存在する中で、Wireless Power Consortium (WPC) が策定したワイヤレス給電の国際標準規格であるQiを参考にしました。WPCはワイヤレス充電の標準化を推進している技術団体です。

WPCとは別にAirFuel Allianceという団体もあります。しかし、現在の市場ではこちらのワイヤレス充電規格を採用している製品が少ないため、今回はAirFuel Allianceの規格は参照していません。

WPCが策定したワイヤレス充電効率の計算方法は以下となります。

 

効率(Efficiency)= 出力電力(Battery Power)/入力電力(DC in Power)

ワイヤレス充電の計算結果は、変圧器の測定結果にバラつきがあることから、変圧器によって損失した数値を排除して決定しています。WPCのデータによると全体的な充電効率は約60%になります。

以下の比較表(表4)を見ると、それぞれのワイヤレス充電器は60%をオーバーした充電効率であることが分かりました。しかし、急速モードのケーブル充電器と比較すると、約20%程度の差があります。ワイヤレス充電の効率を高めるために、どう改善するかが今後の課題となることでしょう。

(表4)

Qi Receiver(Rx) – Samsung GALAXY S7 (2016)(Qi V1.1.2)

 

Qi対応製品 接続互換性 

ワイヤレス充電規格QiはV1.0からV1.2になりましたが、市場には接続互換性の問題があります。

Qi V1.1規格から、「異物検出機能」(Foreign Object Detection; FOD)の感度向上が図られました。これにより、動作中の送電装置付近にある金属帯への加熱を防ぎ、異常事態を検知すると危険を回避するために自動で充電を停止するようになります。WPCはV1.1以降の標準利用を推奨しているため、今後各メーカーはV1.0での新製品発表はしなくなることが予測されています。

アリオンはWPC QI Interoperability Test Spec Ver. 1.4を参照し、接続互換性試験を行いました。「IKEAワイヤレス充電パッド (Qi V1.1.2)」と「Samsung急速モードワイヤレス充電スタンド(Qi V1.2.1)」に加え、新型のワイヤレス充電器(Qi V1.2.2)を1台追加し検証しました。受電側(Rx)はバッテリーチャージャー、ワイヤレス充電の機能が付いたスマホケース、スマートフォンで検証しています。以下の一覧表(表5)はアリオンがQi snifferで検証したものです。

(表5)

結果を見ると、新型のワイヤレス充電器で充電すると、1分以内に充電パッドがパワーダウンしてしまいました。この結果から、新型は製品設計が不完全だったことが可能性として考えられます。今回の試験からQiロゴ認証された商品においてもこの様な接続互換性上の問題が発生していることが分かりました。潜在的には相当多くの問題があると推測され、普及のためには今後これらの問題改善を進めていくことが課題と言えるでしょう。

 

ユーザエクスペリエンス

ワイヤレス充電パットを使用するケースは様々な場面が想定されます。そのため、アリオンの専門家チームはケーススタディのために数々の場面で検証を行っています。例えば、スマートフォンのケースを利用してる人やNFC 対応カード(Suicaなど)を利用している人がたくさんいます。この場合、充電パットの上に置いて充電すると、充電にどの程度の影響があのでしょうか。また、異物として検出されるのでしょうか。

こうした状況に限らず、ユーザはワイヤレス充電パットにスマホを置きながら様々な操作を行うこともあるでしょう。

  •  BluetoothやDLNA(Wi-Fi)を経由してヘッドホンで音楽を楽しむ
  •  DLNA(Wi-Fi)やAir Playで映像をテレビに送信して視聴する
  •  メッセージ(電話、SMS、Line、電子メール)を受信する

 

以上のような状況では、周囲に電波干渉などの不具合を起こすと思われがちです。しかし、よく言われる例ですが、ユーザが硬貨などを充電パッド上に置いてしまい、誤検知によって給電してしまうことで起きる加熱問題なども挙げられます。アリオンではユーザが予測できない様々な場面を技術のバックグラドで想定し検証を進めています。

 

結論

ワイヤレス充電は将来的には普及すると予測されており、市場にはスマートフォン向けだけでなく車載用の製品も登場しています。自動車への搭載が一般化されると、Qiロゴ認証の製品は増加するものと思われます。各メーカーの開発工程上で、バッテリー寿命を延ばす取り組みに加え、過充電防止のために充電量をコントロールする技術の追加など、安全性も重要な課題になるでしょう。

各メーカーのワイヤレス充電器を比較すると、充電時間や効率、表面温度、充電可能な範囲といった性能指標だけでなく、製品同士の互換性も大きな課題になります。互換性はユーザエクスペリエンスにも関わるため、製品化前に互換性を確認できれば、返品や顧客対応コストの大幅な削減や、ユーザエクスペリエンスの向上が可能になると考えられます。